今後、予想される動きとして挙がったのは、国内における「インパクト企業の上場」だ。
「マーケット黎れい明めい期、インパクト企業のほとんどが非上場ファンドで投資を受けていました。その歩みを10年ぐらい続け、アメリカなどでインパクト企業が上場を迎えるフェーズに育ちました。日本はここ3年ほどでインパクト企業の候補になるビジネスがやっと投資を受け始めました。世界の潮流がESGやインパクトという価値観へ大きく振れれば、自然な流れでこうした企業がどんどんIPOしたり、エグジットしたりする時代がくるのではないでしょうか」
しかし、それらの企業が上場の途端に「経済合理性の波にのまれる」事態にはならないだろうか?
「投資家の『こういう社会課題を解決したいから投資する』という意図と、投資を受ける側の『ビジョンに共感してくれる人から投資を受け入れたい』という考えが一致して成り立っていた世界が、上場した瞬間に誰が投資家になるかわからないところに放り込まれてしまう。彼らが『ミッションドリフト』といわれるような、投資家からの圧力を受けてインパクトを手放してしまうリスクは懸念しています」
こうした議論を行う際も、きっと立ち返るべき場所は「なぜ投資をするのか。なぜ投資を受けるのか」という原点になるはずだ。
「投資とは、お金で『関係性をつくる』行為です。私たちは投資先が未上場のときはハンズオン(経営参画)で成長をサポートし、上場後もエンゲージメント(建設的な対話)で支え続けます。
社会課題を本当に解決するには経済活動の根幹を変えないといけないと思い、私はインパクト投資を学びました。自分の力だけでは世界をひっくり返せないけれど、投資の力で新しい仕組みを生み出したり、社会の常識を塗り替えられる。この仕事でその醍醐味を感じています」
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)常務理事の工藤七子
工藤七子◎一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)常務理事。大学卒業後、日系大手総合商社勤務を経て、クラーク大学大学院国際開発社会変革研究科へ入学。帰国した2011年に日本財団へ入会、ソーシャルインパクトボンド事業、GSG国内諮問委員会などインパクト投資プロジェクトに携わる。17年4月より現職。