いくら現地のCVCが頑張っても、本社が従来のままなら新事業の成功には結びつかない。しかし、本社のMS&ADにも、郷に入っては郷に従えと、シリコンバレー型に合わせる役員が何人も現れた。
例えば、米国に出張してきた役員に、佐藤が「ツアコンは禁止」とシリコンバレーの流儀を伝えると、「それはわかっている」と言った。またその役員は、スタートアップとのミーティングでも、「私はダメと思えばスグ伝え、よいと思えばその場で契約する」と明言。同席者たちがそのスピード感に驚いていると、「自分は意思決定に来ている」と伝えたのだという。もちろん、結果として良いビジネス提携が生まれることになった。
CVC投資委員会の東京側の2名も、その夜のうちに返答(きちんと投資案件の資料を見てのフィードバック)をくれるなど、シリコンバレー的スピードで対応は続けられたという。
とはいえ、他にもさまざまな役員がいるわけで、その橋渡しの役割も大切だという。佐藤の上長であるイノベーション室長は、広報IR部長の経験もあり、大企業にはとっつきにくいシリコンバレーの流儀を、絶妙な例え話も交えながら、経営陣にわかる言葉で伝えるなどの橋渡しをしてくれている。
また、別の役員はメディアの活用の重要性佐藤に助言し、Hippoへの大型投資に際しても、日本経済新聞に記事化してもらい、社内でのHippoへの見方にプラスになったそうだ。
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こうした経営層のイノベーションに応じた取り組みがあってこそ、CVCの成功と大型の事業連携が可能になると言えよう。
シリコンバレーのMS&AD Venturesは、いまや20名体制で、総額2億ドル(約220億円)の3号ファンドを運用している。
スタートアップの情報をどんどん本社に出しても、まだ消化不良だったり、アクションに結びついたりすることは少ない。そこで、まず投資して株主となり、スタートアップと関係をつくり、いわば「デートしてみてこれはいいぞ」と選んだ会社を本社につなぐ、というのが目下の役割だ。
これまで投資委員会では、本社からの拒否権発動はゼロ件である一方、フィードバックはお互いにきちんとやりとりできており、適切な距離感で取り組めている。その結果、53社に投資し、ファンドの規模も大きくなった。CVCとしてMS&AD Venturesは軌道に乗っているが、本来の目的であるグループの発展にどう貢献できるかは、まだこれからの課題だ。
実際、投資先にスタートアップを本社に紹介しても、なかなか刺さってくれないという悩みがある。新規事業開発こそがCVCの重要な使命だが、投資先スタートアップの情報をどんどん本社に出しても、消化不良だったり、PoCやビジネス提携といったアクションに結びついたりすることが少なかった。
そこで、2021年度より「イノベーション・ファクトリー」という取組を開始し、スタートアップ企業から日本に役立つ正解を見つけようとするのではなく、「日本に役立つ正解をスタートアップと一緒に創る」プロジェクトを始めたそうだ。
いずれにせよ結果が出るのはこれから。今後の展開を注視していきたい。
連載 : ドクター本荘の「垣根を超える力」
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