──ギアチェンジをする理由は
理由は二つ。一つはアメリカで投資ブームが起こっているため新規顧客の獲得ができるタイミングであること。もう一つはTSGが約3年間デジタルマーケティングを進め、いくらお金を使いどのようなマーケティングを実行することで何人のお客さんが取れるといった、科学的な方法論が確立できたからです。
撮影=小田駿一
要するにもっとお金を使えばもっと成長できる。外部環境的にも内部環境的にも今がチャンスだと。
──合併するSPACに、Quantum FinTech社を選んだ理由は
複数のSPACから申し出はありました。実際にアメリカに行き、数字上の条件だけでなく、我々のビジネスへの理解度やビジョンなどを聞いた上で選定しました。
Quantumは、効率的で高速取引を実現させた経験を持つ会社。TSGの性能や存在意義を高めていくためには、とても良いパートナーです。
(編注:Quantum FinTechは、フィンテック起業家が運営、管理しているSPAC。銀行取引、トレーディング、決済など金融サービス事業を手掛ける企業の設立、構築、収益化で成功を収めてきたメンバーで構成される。会長兼CEOのジョン・シェーブルは外為取引プラットフォームを運営する企業や銀行のなど複数の企業設立経験を持つ。CFOのミゲル・レオンは、ジョンとともに銀行を共同設立。80件のM&Aに携わりチリのビジネススクール学長などを務める。社長兼取締役のダニエル・カーマノは、上記2人とともに銀行創設に関わったほか、国際銀行学・金融学教授。同じく、上記メンバーとともに銀行を共同創業したサンディップ・パテルを独立取締役に置く)
日本では機能しない
──日本での導入も議論が始まった
日本では、SPACが存在すれば上場できると思われていますが、SPAC上場ではパイプ投資家(SPACの資金調達は2段構造で、SPACのIPO時には一般投資家から、M&Aを行う際には追加でパイプ投資家から出資を受ける)が重要な役割を持っています。
実は、SPAC自体を上場させることは簡単なんです。
アメリカでこれまで870社ほどが上場し、そのうち約500社は今も口を開けて買収相手を探しています。SPACを設立する人の中には、無名の投資家や企業がたくさんいるし、SPACを上場させる証券会社も名前を知らないところが多い。だから上場審査のハードルは決して高くない。
一方、SPACを活用した上場をアレンジできるのはJPモルガンやゴールドマンサックスなど名の知れた証券会社です。
パイプ投資家も、世界最大の資産運用会社であるブラックロックや、巨大機関投資家、ファミリーオフィス(100億円以上の資産を持つ一族の資産運用を行う企業)、事業会社が作った投資専門の部門で、その数は限られています。
彼らは、SPACと吸収対象の2社から合併の説明を受けるのですが、出資判断を行うデューデリジェンス(M&Aを行う際に、買収相手の実態を調査すること)は非常にヘビー。
企業評価額の算出を一からやり直します。
SPACはパイプ投資家からの納得を得ることで初めて出資が決まり、その後SEC(米国証券取引委員会)の審査を通過すると、およそ4ヶ月後に上場するという流れです。
これが日本にSPAC持ち込んでどうなるかっていうと、SPAC上場の肝となるパイプ投資家がいないから機能しません。
投資の規模が違うから、日本のベンチャーキャピタルと同様に扱えるものではないし、金融機関系でリスクの取れないサラリーマン的な投資家にできる仕事ではない。日本でパイプ投資ができるとしたらソフトバンクグループ。それぐらいの規模感が必要です。