今、白地小切手で資金を先に調達し、買収先を一任してもらう上場スキーム、いわゆる「特別買収目的会社(SPAC)」が市場に氾濫している。SPAC情報サイト「SPACインサイダー」によると、2020年の最初の約10カ月で上場したSPACは178社で、その調達総額は650億ドルだった。これは、過去10年分の同様の取引の合計額を上回る。
SPACは決して新しいものではない。それがなぜ今、再び注目を集めているのか? その成り立ちと仕組み、話題の関係者たちをご紹介しよう。
SPACは1980年代には「ブラインド・プール(投資内容が“見えない状態”で出資を募るファンド)」と呼ばれ、バケットショップ(非正規のいかがわしい場外取引店)という証券会社の領域で扱われるものだった。
それが92年になると、米ニューヨーク州ロングアイランドの弁護士で証券会社「GKN証券」の最高経営責任者(CEO)だったデビッド・ナスバウムが、新手の白地小切手会社を構築した。新規株式公開(IPO)で調達した資金をエスクロー口座(第三者預託口座)に隔離するなど、投資家保護を強化したのだ。ナスバウムはそれを「SPAC(特別買収目的会社)」と名付けた。
その仕組みは次の通りだ。スポンサー(出資者)は、新しいペーパーカンパニーのIPOで発生する引き受け業務や法務の費用を支払い、2年の間にそのIPOの収益を使って有望な企業を買収する。スポンサーがその候補を探し回る間も、出資者に資金を預け続けたいと思わせるため、通常は1ユニット10ドルのIPOユニットに、普通株1株と11ドル50セントの価格でさらに株を買い増しできるワラントを付けた。ユニットの保有者はさらに、普通株に転換できる「ライツ(権利)」の形で無償の株式を受け取ることもあった。
もしも買収取引の対象が2年以内に見つからない場合、あるいは出資者が投票で買収を拒否した場合、ユニット保有者は初期投資の償還を受けることができた。ただ、多くの場合は総投資額の85%のみだった。
15年ごろになると、SPACは出資者たちに利息付きの100%返金保証を提供するようになった。また、たとえ出資者が合併に反対し、自身が保有する株式の売却を求めたとしても、ワラントや特別なライツを保有し続けられるようにした。さらに重要なのは、出資者たちは合併に賛成票を投じても、保有株の償還を受けられるようになったことだ。
つまり、スポンサーはどんな企業を選ぼうとも合併の許可を得られるようになったのだ。これによってSPACは絶対に損をしないもうけ話となった。出資者は事実上、株価の上昇時に行使できるコール・オプション(買う権利)を無償で手に入れることになったからだ。
米連邦準備制度理事会(FRB)の低金利・金融緩和政策によって株式相場が10年以上にわたり上昇を続けていくなか、SPACが再び流行るのは時間の問題だった。まさにそうなったわけだが、その勢いはかつてないものとなっている。