男性優位の世界で苦肉の奇策。女性建築士が実力を認められるまで


さて2つ目の誤解は、このドラマの核にもなっている、男女の取り替えだ。

設計事務所の面接時、女性は歯牙にもかけられないと悟ったセレーナが咄嗟に「今、日本に滞在中の建築士ブルーノ・セレーナの助手」と自己紹介、それが通って以降、ボスのリパモンティ以下、事務所のスタッフを全員騙すことになる。

女性の名前セレーナ・ブルーノの氏名を逆転させて男の名前にするというアイデアはなかなか巧妙だ。そして今後テレビ会議で登場してもらうその架空のブルーノ・セレーナに彼女が当て込んだのは、他でもないフランチェスコ。

自分の設計案が事務所内で検討され、3週間後に承認を得るまでは、彼に気鋭の建築士ブルーノ・セレーナを演じさせ、自分はその助手を演じ、周囲の人々を騙し通さねばならない。

男性が優先されがちな建築の世界で、女性が生き抜くための苦肉の策、そしてセレーナとフランチェスコのハラハラする綱渡りと、この仕組まれた「誤解」が巻き起こす騒ぎが、軽快なタッチで描かれていく。

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(C)2014 italian international film s.r.l 配給:シンカ Amazon Prime Video他、対象プラットフォームにて配信中

テレビ会議のために室内に大袈裟な日本風の背景セットをしつらえ、セレーナがチャットでフランチェスコに逐一台詞を教える場面は、最初の山だ。

一方、ボスのリパモンティの専制君主ぶりと、秘書に頼りっぱなしのその実情、ボスに一切抵抗できないスタッフらの抑圧感漂う描写は、セレーナたちの綱渡りにさらなる緊張感を与えている。特にベテラン秘書のミケーラは、ボスのお守りと尻拭い的役割に甘んじていながらそれを誇りだとする女性であり、彼女とセレーナの関係性も注目ポイントだ。

そうした中でただ1人、セレーナのあまりの有能ぶりを訝しむ青年ピエトロは、いち早く真実に気づいた人として後半浮上してくる。

仕事関係以外の登場人物で印象深いのは、老人と子供である。

まずセレーナの母親と叔母。イタリアの世話焼きのおっかさんというステレオタイプで描かれる2人だが、その明るさと押し付けがましさと空気を読まない天然ぶりに何度も笑わされる。セレーナが偶然出会った、古い公団住宅住人の老婆とのシーンもしみじみと良い。

一方子供は、まず公団住宅にいる若者たち。暇そうにたむろしているヤンキーだったり廊下で勉強しているギャルだったりとさまざまだが、度々訪れるセレーナは彼らをだんだん味方につけていく。

もう1人は、フランチェスコと別れた妻の間の7歳の息子エルトン。天使のような顔でやたらクールな手強いキャラだが、彼の心が解ける場面は画面にパッと花が咲いたようだ。

人間関係の交錯、変化、緊張の高まりの頂点で、ついに真実は暴露される。旧態依然とした抑圧的な職場に一気に風穴が開けられ、ヒロインの新しい未来が示唆されるエンディングが爽快だ。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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