長野・善光寺近くの地域住民が集うシンカイでの一枚
とはいえ、多拠点生活を豊かにするためにあらゆる無駄を削ぎ落とすミニマリストになる必要はない。むしろ、思考においては反対の非合理性が重要だと思う。
例えば、時間の捉え方。拠点の変更においては、それなりの時間がかかるのが一般的なケースだろう。地域によっては現地で車の運転が必要だったり、1時間にバスが数本しか来ないこともある。
ここで重要なのは、時間の価値換算をしないこと。現地での人との交流や環境から得られる刺激などの暮らしの価値に目を向けて欲しい。そして移動すらも、電波の悪い電車での読書、寄り道をしながらのドライブなど、体験価値へと脳内変換できるかが重要だ。
私は、電波が入らない環境で森林浴をしながら考え事をするために、定期的に白神山地の森を訪れる。また、ふもとの町のコミュニティスペースで仕事をしていると、地域の方が話しかけてくれて世間話を30分以上することもある。時間は大切ではあるものの、時を忘れてその土地での暮らしを楽しむという姿勢こそが、多拠点生活をより豊かにしてくれる。
電波も届かない白神山地のブナの森にて
多拠点生活で気をつけたいこと
最後に、多拠点生活を育む上で、ぜひ気をつけてほしいポイントを紹介する。
ひとつは、移動を目的化しないということ。多拠点生活をしながら、47都道府県すべてに行ってみたいと思う人もいるかもしれない。しかし、色々な地域に行くこと自体が目的になると、移動頻度が増えて疲れてしまう可能性が高い。
色々な地域を往来したい場合は、暮らしのテーマを明確にすることをすすめる。私の場合、「温泉」と「祭り」を主テーマに、豊かな温泉文化がある地域や、参加できる祭りがある地域を訪れてきた。テーマを設定すると、そこから派生して地域の歴史や文化を知り、地域のひととの関わりが生まれる。次々に新たな土地へ行くのではなく、同地域への再訪するという楽しみもできる。
岐阜・郡上八幡での郡上おどり(徹夜踊り)に参加した時の様子
二つ目は、じぶんの肌に合う土地を探すこと。人気の移住先ランキングや周囲の意見に左右されることなく、じぶんが暮らしてみて最もしっくりくる土地との多拠点生活をぜひ考えてほしい。
気候、食、地域文化・風土、物価など評価軸や重要度は人によって全く異なる。また、一定期間住んでみて違和感を感じればすぐに土地を離れてもいい。地域の友人とあまり会えなくなるのは寂しいけれど、土地に縛られることなく、柔軟に暮らしを変化させる。それこそが多拠点生活の最大の魅力だからだ。
まだまだコロナ後の世の中がどうなるか分からないものの、確実に暮らしの柔軟性が高まってきた今日。一度暮らしを見つめ直して、多拠点生活などの新たな選択肢を検討してみてはいかがだろう。