「メンズビオレ自販機」導入で都内進学校が目指すこと。男子長髪も?

私立青稜中学校・高等学校校長青田泰明氏


男子の長髪やリボンも


制服に関しても、デザイナーの藤原ヒロシさんには、着こなしの自由さをテーマにデザインをお願いしました。もちろん、男子が女子の制服を着ても、逆もOKです。実際に、パンツスーツの女子はたまにいますね。

実は女子の制服の「リボン」も、男子の蝶ネクタイとしてもアリ、を前提にデザインされているんです。制服も挑戦であり、実験だと思っています。男子生徒がまだ誰もまだつけてくれないのは残念ですが。

とにかく入り口として「選べるようにしてあげる」、というのが大人たちにできることですよね。


制服の裏地には藤原ヒロシとアパレルブランドSOPHによる共同ブランド「uniform experiment(制服の実験)」の文字が

男子の長髪についても、個人的にはアリだと思ってます。もちろん、女の子のツーブロックや坊主だっていいはずです。

「自分が自分らしくありたい」というアイデンティティ寄りの理由から髪を伸ばしたい男子は当然いるでしょうし、ヘアドネーション(がん治療中の人向けなど医療用のかつらを作るための人毛寄付。31センチ以上が条件)をしたい、っていう男子も最近増えてきているんです。「長髪禁止」のルールでそういうモチベーションを封じ込めるのは不合理ですよね。

女子の「結ばない髪」も同じですが、もしもだらしない長髪の男子が出てきたら、生徒同士で、結んでみたら、もっとこうしてみたら、というアドバイスをし合えればいいと思うんです。

「無自覚なジェンダーバイアス」の問題解決、自販機で


悪気のない無自覚のジェンダーバイアスは、社会において意外と強いと思います。そしてそれは、上書き修正がされにくいんですよね。

ちょうどこの夏も、こんなことがあったんです。男子たちとしゃべっていたらある生徒が「先生、あいつ日焼け止めを塗りたくってるんですよ」って、笑うんです。「あいつ、肌のお手入れにすっげー意識高いんです」と。

聞いていて、「いや、男でも日焼け止めくらい塗るだろ、ふつうに」と思うと同時に、今の時代でも「男は日焼けぐらい気にするな」という古式ゆかしき価値のテンプレート、ある種のマッチョ思考は生きているんだと思い、新鮮でもありました。

そして、なにか仕組みでもないかぎり、一世代上の、たとえば父親のものとは違う価値観を、若い世代に「完全に自力で」獲得させるのは意外と難しいことに気づいたんです。

そして、実際にどうすれば自力獲得を助けられるか、そういう無自覚なジェンダーバイアスを壊せる仕組みを作れるか、を考えて、花王のビオレやニベア製品の自動販売機を、学校の正門奥にある吹き抜けの広場スペースに置くことを決めました。メンズビオレも買える販売機です。

LGBTQの子も在校生には必ずいるはずですが、その子たちにもスキンケアを堂々としてほしい。そういった意味も含めての導入でした。商品を納入していただく花王側とは商品ラインアップについてなど、何度もセッションを重ねました。


校内に設置された花王のビオレやニベア製品の自動販売機
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構成・文=石井節子 写真(青田氏)=曽川拓哉

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