自治体のプラットフォームにも
生徒たちの集団組織である学校に「文化」が作られるまでは時間がかかる。
実は今週から、女子トイレに無料の生理用品を置きます。もしかしたらごっそり持ち帰る生徒がいて、学校側は苦労することになるかもしれない。しかし最悪の場合、最初はそうでも、1年続けたら誰も持ち帰らなくなると思います。
そして、そもそも海外では、生理用品はもう社会のインフラになっていて、トイレに無料の生理用品が備え付けられていることが多いですよね。わが校のある品川区は先進的な自治体なので、「品川区の公衆トイレには必ず生理用品を置く」などとしたら、国内では先駆けですし、国際標準に準ずる取り組みになってクールだなと思います。そのためにも、まずは品川区にある私立校であるわが校でやってみる。
そんなふうな実験台にしてもらえばいいと思っています。
髪型校則改定にしても、花王の自販機にしても、生理用品にしても、新しいことを実装するうえでのプラットフォームになれればと考えています。生徒たちにもアイディアを出してもらって。成功すればモデルケースになっていけるはずですし。
企画の発想は非競合から。「失敗」でさえ先鞭を
他校さんの状況はわからず、あまり調べたりしていません。校内運営上の企画発想は、主にビジネス書からですね。あとは教育業界以外の、異業種の方たちとの交流からです。
新しいことをやれば失敗はつきものとわかっているので、思いきって行けます。
他校がやっていることをやると、「あそこが成功したのになぜうちができなかったんだ?」という振り返りが、別の取り組みをする際の牽制力になり得ます。その分、まったく新しい試みだと、失敗するのも真っ先。比較対象がない、競合の船がいない大海原で、冒険の矛先を思い切って選べる。「失敗」でも第一人者になれることが、競合とベンチマークしないことの大きな利点とも思っています。
たとえば来年は、子どもたち主導のクラウドファンディングを立ち上げる予定です。たとえばいくら以上のファンドをもらえれば、部活の大会の前列で観戦できる、青稜祭のチケットはいくら以上のファンドでプレゼントする、などの企画も生徒たちに考えさせる。
「お金を集める」という経済活動の基礎体験を、若いうちから体験させたいと思っています。
──「ビオレ自販機」の花王担当者も「異例のことだったが、青田先生の熱意で実現できた」と言う。先例のない企画を次々と打ち出す青田泰明校長、次はどんな色の帆にどんな風をはらませるのか。目が離せない教育者の1人ではある。
青田泰明(あおた・やすひろ)◎2020年春から現職。慶應義塾大学法学部政治学科、同大学大学院社会学研究科卒業。大学院在学中から神奈川県下の私立高校、中学生対象のサポート校で経験を積む。青稜中学校・高等学校には2008年より籍を置き、校長補佐、校長代行などを歴任。