EY
Entrepreneur
Of The Year
2021 Japan

2021 Finalist Interview

#06

株式会社ファイバーゲート
代表取締役社長

猪又 將哲

躍進を続ける次世代インフラの開拓者

株式会社Lib Work 代表取締役社長 瀬口 力
EY Entrepreneur Of The Year 2021 Japan EY Entrepreneur Of The Year 2021 Japan EY Entrepreneur Of The Year 2021 Japan

「私はアントレプレナーではありません。どう考えても」。開口一番、猪又は屈託のない笑顔でこう切り出した。

猪又によると、起業家というのは世の中に2パターンに分けられる。これで一旗揚げよう、というのが2〜3割、あとの7〜8割は何らの事情で起業せざるをえなかった人で、彼自身は「後者のクチ」という。同じ会社の仲間6人とともに、これからの時代を見据えて通信業界へ進出し、会社をつぶさないということを第一義にここまでやってきたと話す。

創業から18年になるが、「一度たりとも通期で赤字を出したことがない」のは、猪又の強いこだわりのようだ。

「これは私の持論ですが、赤字というのは、世の中に認められていないということではないかと思っています。世の中に本当に必要とされていないから赤字になる。当社の経営理念は『ありがとうを集める。』から始まるのですが、仕事はお客さまのためにあるもの、もっと言えば、『先義後利』の気持ちがなければ発展はないと考えています。18年の間には成功も失敗も、困難に直面し窮地に追い込まれることもありました。経験から私自身が学んだことです」

ニッチマーケットで、
ナンバーワンを目指す

ファイバーゲートは2003年、ISP(インターネットサービスプロバイダー)の代理店からスタートした会社である。

当時破格に安かったネットキーワード広告で、ユーザを自社サイトに誘導し、代理店手数料で売り上げを立てていた。月間700万円もの売り上げがあったというから驚きだ。しかし、創業して3ヶ月後には広告料が十倍以上に跳ね上がり採算が合わなくなる。ちょうど光ファイバーが普及し始め、大手通信キャリアが大型集合住宅向けのVDSLという丸ごとブロードバンド化サービスを開始した時代の潮目でもあった。そこで今度は、短期間の代理店業務で蜜月となった大手通信キャリアの代理店としてVDSL供給を後押ししていった。

企業成長にはいくつかの節目がある。成長の種は、猪又が抱いたある疑問の中にあった。

「大手通信キャリアのブロードバンド化は、分譲マンションや大規模な賃貸集合住宅が中心のサービスでした。しかし、日本の賃貸住宅というのは、3分の2以上は20戸未満で、小規模な物件が多い。住まいの規模に関わらず、高速インターネットを使いたい人はたくさんいるわけです。社内で話し合い、『自分たちでLANケーブルを引こう』と考えたものの、コストが高すぎる。そこで思いついたのが無線、今でいうWi-Fiです。現在は壁埋め込み型が主流ですが、当時は廊下にルーターを設置していました。無線LANを使い、自社ブランドで集合住宅をまるごとブロードバンド化したというのは、たぶんぼくらが世界ではじめてではないかと思います」

この独自のサービスは、大手不動産仲介業者など約100社へのPB(プライベートブランド)としても提供され、「インターネット無料賃貸マンション」は業界のスタンダートになっていく。この成功体験により、ファイバーゲートは『ニッチマーケットにこだわり、ナンバーワンシェアを獲得する』というビジネスモデルを構築していった。

株式会社ファイバーゲート 代表取締役社長 猪又 將哲

「前例のないニッチ・マーケットにこだわり、構内インフラの価値を最大限に高め、
新しい世界のナンバーワン・オンリーワンを目指す。
そのために妥協できなかったのが、アップデート可能な一気通貫型のサービスです。」──ファイバーゲート
 代表取締役社長 猪又 將哲

人との縁を育み、大失敗から大躍進へ

レジデンスWi-Fi事業を軌道に乗せる一方、観光施設や各種店舗・商店街、商業施設向けの「フリーWi-Fi」サービスも開始し、ファイバーゲートは名実ともにフリーWi-Fiのパイオニアとなる。急成長の裏には「人との縁があった」と猪又は振り返る。

「実は、レジデンスWi-Fiの普及を目指し東京に進出した際に、大失敗をしました。北海道は木造住宅が多いのですが、東京は軽量鉄骨や鉄筋コンクリート造が主です。Wi-Fiの電波は微弱なので、つながらない、遅い、などクレームの嵐でいったんサービスを休止したんです。その後、フリーWi-Fi事業の拡販も見据え、自分たちがやりたいことを実現していくためには、コストパフォーマンスの高い通信機器を自社開発するしかないと考え、人材獲得へ向け、アンテナを張り巡らせました。

そしてあるとき、親交のあった北海道内の大学の教授から『Wi-Fi業界の有名人の講演があるから来てみないか』と誘われ、出会ったのが、福岡で日本初の地下街Wi-Fi化に携わり、現在当社の開発部隊を統括する井上聡志です。当時会社経営者であった井上は、技術はピカイチだけどお金の扱いはいまひとつ。資金援助をしつつ3年ほど様子をみたものの、うまくいっている様子が見受けられなかったので、一緒にやろうともちかけたところ入社してくれたのです。その結果、壁埋め込み型のルーターなど通信機器の内製化ができるようになり、ノウハウもたまることから外販も可能になったのです」

活発なエネルギーが次の戦力をもたらす。競合他社から敏腕・営業マンが入社することになり、Wi-Fiサービスの販路拡大とともに、通信機器の販路開拓にも拍車がかかる。「いまは製品開発のコストは、ほとんど外販で賄えるまでになっている」と自負する。

東京での失敗をアントレプレナー精神で克服し、企業の飛躍へとつなげた猪又。人との縁を大事に育むことも成長に欠かせないエンジンになることを教えてくれる、貴重な一コマである。

株式会社ファイバーゲート 代表取締役社長 猪又 將哲

ファイバーゲート独自技術によるIPv4 over IPv6 通信に対応した無線LANアンテナ内蔵のアクセスポイント/ルーターFGN1300W。

動き出した、ファイバーゲート解体計画

猪又は現在、「ファイバーゲート解体計画」に力を注いでいるという。解体計画とはショッキングな名前だが、それだけの覚悟を込めて取り組むということなのだろう。足元の業績は、コロナ禍を機に定着したテレワークが追い風となり、レジデンスWi-Fi事業は右肩上がり。21年6月期の同社の連結純利益は前期比40%増を達成している。

「上場して3年半が経ち、社員の三分の一ぐらいは上場企業に入社したという意識をもっているんですね。そんなことはない、ただの中小企業だ、もっというと零細企業だ、常にベンチャースピリットをもて、と叱咤激励しているのですが、どこかで大企業病というものがはびこりつつある。それを私は一番危惧しています。ですから、当社の事業をユニットに分割して全部IPOさせようと思っています。既に一つのユニットが組織化され、『IPOするんだ』と、めちゃくちゃ燃えています」

猪又自身もまた、新たなIPOに向け走り出している。再生可能エネルギー電力業である。世界中の企業が脱炭素社会の実現へと舵を切るなか、「ニッチ」へのこだわりは健在。集合住宅の屋根の上に太陽光パネルと蓄電池を設置し、発電した電力をそのまま住宅につかう「自家発電・自家消費」モデルを構築する考えだ。

これまで培ったレジデンスWi-Fiの技術も導入する。また、災害時に衛星通信に自動的に切り替わるBCP対策用の「衛星通信Wi-Fi」サービスも取り入れ、さらにはIoTによるスマート化の充実も図る。「再エネ」と「通信」はいわば車の両輪といっていい。

「日本の場合、大規模太陽光発電では用地や送電網が課題になります。可能な場所に、最新鋭の技術を投入し、自ら最適化を図ってコントロールしていくというのが、我々の狙いであり役目です。電気代無料マンションと言いたいところですが、厳密には、電気使い放題というのは本義に反しますので一部有料化にはなると思いますが、自家消費型の暮らしをすることで住人の脱炭素への意識が高まり、そこから新たなイノベーションも起こるのではないかと考えています」

「社会課題解決型企業にならなければならない」と話す猪又には、近い将来、電気もない、通信もない発展途上国の子どもたちに向けて衛星通信と太陽光発電を組み合わせて、教育を受けられるシステムを開発したいという希望がある

「激動の世界で、やらなければならないことは、たくさんある。ビジネス上ではスピード感が欠かせません。要は、その立脚点をどこに置くか。私の場合は、やはり先義後利。これに尽きるのではないかと感じています」

猪又の勢いは、インフラを通して幸せな未来を築きたいと願う熱量にあふれている。これまで新しい事業を何度も成功させ、また次のステージに挑もうとする猪又。アントレプレナーではないどころかシリアルアントレプレナーである。

株式会社ファイバーゲート 代表取締役社長 猪又 將哲

「成功や失敗、困難に直面して学んだのは、仕事はお客さまのためにある、ということです。
先義後利の考えに立脚することで、ビジネスのスピードは増す、と考えている。」

株式会社ファイバーゲート

本社/北海道札幌市中央区南1条西8丁目10-3 第28桂和ビル

URL/https://www.fibergate.co.jp

従業員数/正社員221名(2021年時点)

株式会社ファイバーゲート 代表取締役社長 猪又 將哲

1965年、愛知県生まれ。北海道大学経済学部を卒業後、損保会社勤務を経て通信業界に転身。1995年にマイネット代表取締役に就任し、2000年、札幌市に本社を移転してファイバーゲートを設立。Wi-Fi事業を手がけ、2018年に東証マザーズ上場、19年に東証一部と札証に重複上場を果たす。

Promoted by EY Japan|
Text by Sei Igarashi|
Photographs by Shuji Goto|
Edit by Yasumasa Akashi

EY Entrepreneur Of The Year 2021 Japan