EY
Entrepreneur
Of The Year
2021 Japan
2021 Finalist Interview
アントレプレナーたちの熱源
#05
株式会社Lib Work
代表取締役社長
瀬口 力
"誠実な仕事"で革新を起こす戸建て業界イノベーター
リブワークは熊本県山鹿市に本社を置き、新築住宅の企画、施工、販売を手がけるハウスメーカーだ。現在の取締役社長、瀬口力の父が瀬口工務店として興している。
「私が社業を継いだのは、99年です。弁護士を目指して大学院に通っていたのですが、父の逝去に際し、葬儀の喪主挨拶で“自分が跡を継ぎます”と宣言しました」
大工だった父からは、「自分のやりことを思いっきりやれ」と言われて育ってきたという。祖父もまた大工であった。尊敬すべき九州男児の血を受け継ぐ3代目が、自らも「家を建てて人様に喜んでもらう仕事」に就いたのは、やはり運命だったか。
「運命というと大仰ですが、自分の使命であり、やりたいことであるのは確かです。長らく闘病していた父を看病するなかで、父と一生分の話をしました。仕事や会社に対する想いを聞くうちに、弁護士よりもやりたいことが生まれました。父との過ごした最後の時間で決意が固まっていったのです」
父から「俺は誠実に生きていくけん、お前も頑張れ」と言われたことがあります。その父の跡を継いで経営者になって22年、私には“常に正しいことをしてきたという自負”があります。──Lib Work
代表取締役社長 瀬口 力
WEBで住宅販売に
イノベーションを起こす
社長となった若き日の瀬口は、合理性と先見性の人だった。
「私が最初に着手したのは、自社のホームページを自分の手で開設することでした。これから先は、インターネットが大切な顧客接点になるとの確信がありましたから」
99年のインターネット白書は、同年の国内のインターネット利用者を1,508万人と推計している。世帯普及率は、12.89%だ。この時代にスタートダッシュをかけて以来、瀬口は20年以上もの長きにわたって自社のWEBマーケティングに磨きをかけてきた。
「住宅業界ではテレビCMなどのマスメディアを活用し、モデルハウスに集客して商談を進める手法が何十年も前から続いています。しかし、リブワークは従来のハウスメーカーとは違って、WEBマーケティングをコアコンピタンスとしています。現在、私たちは土地を探すための“e土地net”、建売住宅に特化した比較検討プラットフォームの“e建売net”、建築家と家を建てたい人には“e建築士net”といったように、お客様が自身の要望に合わせて情報を検索できるポータルサイトを運営しています。これらのサイトを基点にしたビッグデータが、私たちにとって他社にはない大きなアドバンテージとなっているのです」
リブワークが賢明なのは、掲載を無料にして自社物件ではない情報も載せて、契約成立時の仲介手数料も無料にすることにより、お客様にとって本当に価値のある情報を集めているところだ。土地や戸建てに関する情報のプラットフォーマーになり、情報の質と量で圧倒的優位に立てば、リブワークはお客様とWIN-WINの関係でいられる。
「リブワークには、インサイドセールス(相手先を訪問しない内勤型営業)の専門部署があります。各種のポータルサイトで接点をもったお客様とは、非対面のチャンネルやツールを活用してコミュニケーションを重ね、良好な関係構築を図っています。結果として、WEB集客からモデルハウス送客に至る割合が50%近くになっています」
こうしたワークフローにより、集客コストが下がり、お客様の要望とのミスマッチが発生する率も下がり、成約率は抜群に上がる。このリブワークならではのノウハウの強みを存分に発揮することができたのが、実は昨年から続くコロナ禍においてだった。対面接触が制限されたなかで、WEBでの問い合わせは劇的に増え続けた。リブワークの2020年の戸建て受注数は、前年比で2倍の伸びを記録している。
顧客が内部を疑似体験できるリブワークの住宅VRコンテンツ。「希望通りの住宅なんて無理」という業界の常識を打ち壊した。
VRとCGの活用で
顧客の後悔を未然に防ぐ
これまで述べてきたとおり、リブワークは単なるハウスメーカーとは一線を画している。住宅テック企業として、常に最先端を走り続けているのだ。
「私たちは、WEBマーケティングの他にも強力な武器をもっています。VRとCGです。お客様にとってのさまざまな不安は、家のイメージが頭のなかでなかなか具現化できないことから生まれます。実は大手のメーカーであっても、現段階ではVRやCGのスキルおよびリソースはまだまだ充実していない状況です。そんななか、リブワークは内製化でコストを抑えながら、お客様が新しい家での暮らしをリアルに想起できるようにお手伝いをしています」
リブワークでは完成した家を疑似体験できるVRコンテンツを、建てる前に全棟に提供している。それはすなわち、いざ住みはじめてから「こんなはずではなかった」という後悔を生み出さないということ。顧客満足度においてもリブワークは高水準を保ち続けている。
熊本地震で問われた
仕事の意義、そして未来へ
合理性と先見性で事業を切り拓いてきた瀬口は、公平性と誠実性の人でもある。
「学生時代に父から『俺は誠実に生きていくけん、お前も頑張れ』と言われたことを覚えています。さらには、弁護士を目指して法学を学んできたことが思考の根底にあるからでしょうか。経営者として私が大切にしているのは、“損得ではなく、何が正しいことなのかを常に考える”ことです」
瀬口は父から受け継いだ瀬口工務店をエスケーホームと改名して業績を伸ばし、15年に福岡証券取引所Q-Boardに上場させた。さらに、18年には住まいだけでなく暮らしに関すること全般に取り組む“生活創造企業”を目指して、現在のリブワークへと社名を変更。19年に東京証券取引所マザーズへの上場を果たしている。
「上場しないという選択肢は、私にはありませんでした。権限を分掌し、ガバナンスを徹底するといった意味において、上場は社長にとって窮屈なものかも知れません。しかし、上場することにより、社員にとっていい会社になることは間違いありません。上場とは、株式会社が“当たり前の姿”になることだと、私は考えています。それが、“正しいこと”なのです」
最初の上場を果たした15年の翌年には、熊本地震が起きた。リブワークの社員は、それまでに自分たちが建てた家のお客様すべてを訪ねた。内閣府災害対策本部の発表によると、住宅の被害状況は全壊8,369棟、半壊32,478棟、一部破損146,382棟となっている。
「あの地震が起きるまで、“地震は熊本には来ない”という意識が何となく熊本県人のなかにありました。そのため、住宅販売の際に耐震性をPRしても、“どうせ地震は起こらないから”と重要視されていないお客様もいらっしゃいました。ただ、私としては、“お客様にPRしなくてもいいから、どんな地震が起こっても倒れない家を建てておこう”と社員に伝えていました」
“家は人の命と幸せを守るためにある”と瀬口は言う。気象庁の震度階級でもっとも大きい震度7を観測したのみならず、震度6の余震が度重なり、熊本地震は甚大な被害を残した。しかしながら、リブワークが建てた家は、全棟がそこに住む人の命を守り抜いた。
「あのとき、リブワークで建てた家が倒れているようなことがあったら、私は間違いなくこの仕事をやめていたでしょう。地震後には、家屋の倒壊や瓦の落下などの危険性の度合いを判定した紙が各戸に貼られました。赤紙・黄紙・青紙のいずれかが貼られたのです。私たちは震源地となったエリアにも数多くの家を建てていましたが、そのすべてが青紙でした。“ああ、誠実に、正しい仕事をしてきて本当によかったな”と感じましたね」
正しい仕事は、いずれ必ず人の評価を集めることになる。リブワークは熊本地震の翌年以降、過去最高益を更新し続けた。
これから先、瀬口はどのような未来を見据えているのだろうか。
「いま、リブワークは世の中にある戸建ての間取りのプランすべてをデータベース化することに取り組んでいます。私は、“戸建てプランのグーグル化”と呼んでいます。お客様の要望を聞いたうえで、AIによって最適解のプランを提案するという仕組みです。これを私たちが独占するのではなく、日本全国の小さな工務店などに使っていただきたいと思っています。22年4月にローンチする予定です。また、住宅テック企業の本懐として、“3Dプリンターでつくる未来の家”も構想しています。これは日本全国のお客様をターゲットにするのはもちろんですが、SDGsの観点から海外での展開も視野に入れています。貧しくて家が建てられてない人に、高品質で格安な住まいを提供したいのです」
いま、“3Dプリンターでつくる家”の実現に向けて具体的に動いているハウスメーカーは、全国でもリブワークだけでなないかと瀬口は言う。今後、21年中にはデザインを発表する予定であり、23年をめどに販売までこぎ着けたいと考えている。
「住まいを通じて人々に豊かな暮らしと幸せを提供する」という理念のもと、瀬口力による正しいブレイクスルーは、まだまだこれからも続く。
私たちのコアコンピタンスは、
WEBマーケティングです。
リブワークは、戸建て業界の
プラットフォーマーに
なりたいと考えています。
1973年生まれ、熊本県山鹿市出身。弁護士を目指していた最中、父の急逝をうけ熊本大学大学院法学研究科在学中に社員4名の工務店社長に就任。2015年、福岡証券取引所Q-Board上場。2019年東京証券取引所マザーズ上場を果たし時価総額を上場時より20倍以上に増加させる。「住宅業界にイノベーションを起こす」という信念のもとデジタルマーケティングを駆使し事業を拡大。数々の新しいビジネスモデルで一地方から全国展開に向けて急成長中。
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Text by Kiyoto Kuniryo|
Photographs by Masahiro Miki|
Edit by Yasumasa Akashi