EY
Entrepreneur
Of The Year
2021 Japan
2021 Finalist Interview
アントレプレナーたちの熱源
#02
株式会社クラダシ
代表取締役社長CEO
関藤 竜也
ソーシャルエンジンを内蔵した実践者
1998〜2000年にかけて商社マンとして、中国に赴任していたクラダシ代表取締役社長CEO 関藤竜也。“世界の台所”として注目を集めていた当時の中国だったが、彼が目の当たりにしたのはコンテナ単位の大量の食料廃棄、規格外のために処分される何万羽もの鶏の血だった。
「こんな状態、放っておけない」
当時30歳だった関藤は、後の社会問題をこの時点で予感していたが、同時にいまの自分では何もできないという無力感を抱いたという。帰国後、商社で現在のビジネスのプロトタイプと言えるようないくつかの事業モデルを上司に談判したが、「人の食いかすで商売をするな」の一言で一蹴されたという。
そのとき彼が覚えた無力感には、既視感があった。ちょうど商社へ内定が決まった1995年のことである。
「阪神淡路大震災に被災したのです。自分の家の中も惨憺たる有様だったのですが、阪神高速道路が倒壊した映像がテレビで流れ、これはとても“放ってはおけない”といてもたってもいられなくなりました。
気がつけば私は、バックパックに食料や毛布を入れて、現地へ向かっていました。到着した現場は、大量のがれきのなか、あちらこちらから火の手も上がっており、想像以上の壮絶さでした。目の前でたくさんの人々が苦しんでいるというのに、自分のできることがあまりに少なく、愕然としたのを鮮明に覚えています」
これら2つの事実で思い知った無力感により、関藤の人生は変わった。教訓は、「個人の力には限界がある」ということ。「自分が正しいことをしている」という確信はあったが、実現するためにはたくさんの人々の共感を集めることが必要だった。
「私の心に火がつきました。自分はもっと力をつける必要がある。その上で今度こそ、課題を解決できる仕組みをつくると決意したのです」
以降、関藤は、起業時期を見極めるフェーズに入った。
「廃棄される予定の食品を企業から買い上げ、
新品でも中古でもない1.5次流通という新たな
流通網をつくり、フードロス削減を実現する。
参加することで企業価値を向上させ、利用者も
社会貢献の満足感を得られるエコシステムが
KURADASHIなのです」──クラダシ
代表取締役社長CEO 関藤 竜也
“放ってはおけない”
大量廃棄される食料を、循環させる仕組みをつくる
2000年9月に国連で採択されたのが、「(2015年までに達成すべき)ミレニアム開発目標(MDGs)」である。そして2015年のSDGs採択を翌年に控え、関藤はついに機を得た。
「周囲の企業の、環境意識が徐々に変わり始めたタイミングでした。2014年7月にフードロス問題を解決する『クラダシ(旧:グラウクス)』を起業しました。個人の力ではなく、企業として社会に影響を与える存在になりたかったからです。
さらに重要なのは、アクションを持続可能なものにしなければならないということ。そのためにはボランティアや寄付ベースではなく、ビジネスとして成立させる必要がありました」
会社設立から約7カ月でローンチしたのが、社会貢献型フードシェアリングプラットフォーム「KURADASHI」である。廃棄される予定の食品を企業から買い上げて、お得に販売するショッピングサイトだ。
とはいえ一般のアウトレットショップではない。新品流通(1次流通)でも、中古流通(2次流通)でもなく、廃棄予定の食品を還流させる流通の仕組みを新たに構築し、いわゆる1.5次流通を実現することを目標としている。
「世界的なESG、SDGsに対する意識の高まりに呼応することが、(御社の)企業価値を向上させるのだと企業を片っ端から説得してまわる日々が続きました。しかし会社設立当初は時期尚早の感があり、企業の大半からNOを突きつけられました」
メーカーサイドにとって格安販売は、ブランドイメージがダウンし、商品価格自体が維持できなくなってしまうとそれまで考えられていた。時流の流れはあっても、全社的な理解を得ることは非常に難しかったという。
KURADASHIのエコシステムは、利用者がお得に商品を購入するとともに、フードロス問題をはじめとした社会課題に貢献するところまでで完結する。そのためには起点となる仕入れは特に重要なミッションだった。
その最大の難関を、関藤はどう突破したのか。
「100戦100敗は当たり前という状況でした。しかし私は、フードロスは人類がいつか解決しなければならない問題だと知っています。だとしたら、NOと言われたとしても、その時点のNOであり、やり抜けば必ず時期が来て、受け入れられると考えたのです」
クラダシのフードロス解消への挑戦に対しては、これまで数々の表彰状と感謝状が贈られてきた。
ユーザーの声が企業を動かし始めた
2018年頃になると、日本国内でも次第にSDGsの機運が高まり始めた。諸問題とともにフードロスも大きな社会課題として顕在化し、企業の意識も次第に変わり始めていった。
「100連敗を超えたなかで潮目が変わったと感じた瞬間です」
世の中は動き出した。メーカーサイドに“夢のような話”と軽んじられていたESG、SDGsへのアクションによる企業価値の向上が、がぜん現実感を帯び始めた。
何かを始めなければならないと焦る企業の懐に、爆発的な熱量とともに関藤は飛び込んだ。
「自分の信じていたことはやはり間違っていなかったのです。しかし説得作業のなか、最大の決め手となったのは、ユーザーの声でした。
メーカーは何よりも消費者(顧客)の感覚を大切にします。ユーザーが社会貢献を大きく意識するようになったことで、企業の態度も軟化したのです」
つまり賞味期限間近の食品を廃棄せずに無駄なく流通させることが、意識の高さとして企業のプラス評価となる時代がやってきたのだ。
「フードロスはすべての人々にとって自分ごとの問題であり、KURADASHIはそれを楽しく解決する手段です。誰ひとり取り残さないことを誓うSDGs。このサイトには、自分のお得だけではなく、その先に他人の得もあります。すべての人が幸せになる、つまり、誰もが気軽に参加できることを誓うサービスなのです」
現在KURADASHIには1,500アイテム以上が常時流通し、契約企業も850社を数えるという。いまではメディアにも数多く取り上げられるようになり、関藤は“フードロス解決の旗手”として、行政の諮問会や大学での講義のために呼ばれる機会も増えている。
クラダシ社員一同
1.5次流通の充実のためにIPO実現へ。
還流を行いやすくする物流改革を目指す
関藤にはファンが多いと言われる。そして同じように心に“ソーシャルエンジンを内蔵した”社員が続々と集まって来ているという。さらに次の目標として、関藤はIPOの実現タイミングを虎視眈々と狙っているという。
「資金調達で行いたいこと、それは1.5次流通のさらに最適化した物流システムの構築です。またKURADASHIの会員数は現在25万人、その適正価格を判断するためのプライシングビッグデータを活用して、グローバルに進出することも考えています」
クラダシが手がけているのは、フードロスだけではない。関藤は、2040年に訪れる自治体危機や、喫緊の課題である地方創生、災害対策にも目を配っている。
「そうした課題もまた、いつか解決しなければならない問題です。それらを私は、ビジネスの力で解決したいのです」
「コンテナ単位の大量の食料廃棄、
規格外だからと処分される何万羽もの鶏の血。
こんなことは“放ってはおけない”。
100戦100敗のなかでも諦めなかったのは
自分が正しいことを行っていると知っており
いつか理解されると知っていたから」
1971年生まれ、大阪出身。1995年総合商社入社。高度経済成長期の中国駐在を経て独立。戦略的コンサルティング会社取締役副社長を経て、2014年フードロス問題を解決するため、株式会社クラダシを設立し代表取締役社長に就任。SDGs採択の7カ月前に社会貢献型ショッピングサイト「KURADASHI」を開始。売上の一部を社会貢献活動団体へと寄付している。
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Text by Ryoichi Shimizu|
Photographs by Shuji Goto|
Edit by Akio Takashiro