ビジネス

2021.11.06 11:00

行き場のないフルーツを救う。人も地方も動かすパティシエの情熱

江森宏之氏が手がける「メゾンジブレー」のケーキ


小田原も同じくで、新たに特産品にしようとしている湘南ゴールドという柑橘類に関して消費量と認知度を上げるための相談を受け、小田原市長にプレゼンをして早速商品を開発。メレンゲ、マシュマロ、シロップ、ジェラート、皮のコンフィ、ケーキ、グラニータ、マーマレード、ティグレ、ゼリー、など10品目ほど、皮から実、果汁まで余すことなく加工して小田原の各所で販売している。
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メゾンジブレーでも、そのうち一つの焼き菓子を販売している。それは、生地の中に白いわたの部分や、皮のコンフィを入れ、果汁入りのアイシングをかけて仕上げている。爽やかな酸味のある生地に、ほんのり苦みのある皮がアクセントとなる個性的な味わいは人気の一品だ。

「柑橘類は3分の1が皮なんです。それをできる限り使えば、ゴミ問題の改善にもつながる。今後はパッケージも環境によいものに変えて、SDGsな時代を象徴するスイーツにしようと思っています」と江森氏は言う。

努力が数字になって表れる


「フルーツ平和党」と江森氏は冗談でいうが、フルーツ大使の全国制覇を目指しているという。
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北海道では、夕張メロンの商品を開発した。また、トウモロコシは10万本以上とれる。それも一番果だけの数字で、二番果、三番果まで含めたら、とんでもない数字になる。ブランド価値が落ちるので、安くても一番果のB規格まで規格外は出したくないという農家の意向を汲み、二番果、三番果はジェラートやとうもろこし菓子に加工する。



岩手では、フルーツ王国であることのアピール大使を行っている。特産品にあまりイメージがないが、実は、りんご、ぶどう、ほうずき、いちご、ぶどう、きいちご、すもも、国産のラズベリーなど多彩な果実が栽培されている。その豊さを表現するレシピ開発を4年続けている。地元の栃木ではいちごを使った食のコンクールの審査員を務めるとともに、レシピ開発も手掛けている。神奈川、愛媛、宮崎は、既出の通りであるが、北から南までフルーツで日本地図が描けるほどだ。

一昨年、2駅手前のグランベリーパーク内に支店をオープンした。近いけれども微妙に商圏が違い、その2店舗を合わせると年間でのべ50万人の客が来店するという。スイーツの力はすごいとあらためてその数字に驚かされる。

本店の店頭では、ほぼ毎週末、マルシェと称して地方の果物を販売している。なかでも宮崎県が積極的で、年に何十回もマンゴーや日向夏などを販売してきた。その販売量もかなりのものだそうだ。太田市場で調査した数字によれば、宮崎産の野菜、フルーツの消費量が3年間で数十%ものびたという。

「お客さまに喜んでもらいたいの一心でやってきましたけれど、努力がきちっと数字になって表れているというのは嬉しいですね」と相好を崩す。

「うちみたいなビジネスをやりたいと言ってくれる後輩も増えている」と、江森氏はいう。たった一人の客を幸せにすると同時に、農家や産地を助け、喜ばせることのできるビジネスに魅力を感じてのことに違いない。確かにスイーツには、人を幸せにするだけでなく、産業や地方を動かす力がある。江森氏は、スイーツというビジネスの新たな可能性を証明した先駆者であると言えるであろう。

連載:シェフが繋ぐ食の未来
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文=小松宏子

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