環境問題への取り組みも不可欠だ。
日本政府が2050年までのカーボンニュートラルの実現を目標とするのに先んじて、2030年には社内の工場や事業所からのCO2排出をゼロにする「カーボンフリー」を目指す。それだけでなく、CO2を直接回収する「カーボンネガティブ」を実現する技術がこれからの大きな鍵になるのではないかと東原は見ている。
そのため、日立は基礎研究予算として、これまでの年間4000億円から増額し、次期中期経営計画では、3年間の合計で1兆5000億円を用意している。
社会インフラ構築が強みの日立が三井不動産とともに取り組む「柏の葉スマートシティプロジェクト」(千葉県柏市)。エネルギー管理システムのほか、ヘルスケア情報や人流情報も解析して、快適な環境づくりを目指す。
世界での競争に打ち勝つには、人的資源を世界水準に近づける必要もある。多くの日本企業でダイバーシティの達成は進まないなか、日立はD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進を経営戦略の一環として位置づけている。現在、10人の社外取締役のうち6人を外国人が占める。「メンバーの多様性によって、取締役会が活気あるものになっている」と東原は話す。
前会長の中西宏明のもと、日立は10年前にグローバル人材のデータベース化を進め、国籍を問わない人事評価制度を全世界で統一した。
20年4月にはイタリア子会社のカントリーマネージャーだったロレーナ・デッラジョヴァンナを招き、本社のCDIO(Chief Diversity & Inclusion Officer)に据えて人材の多様性のあり方について取り組む。同年10月、目標としていた「2020年度までの女性管理職800人」を達成している。
21年6月、日立の会長兼CEOに加え、経団連の副会長に就いた東原は、企業の今後のありようについて思いをはせる。「これからの企業は、社会貢献の度合いや社会価値をどう向上させていくか。さらに言えば、人々のウェルビーイング(身体的・精神的に良好な状態)をどうよくするかに貢献できているかで評価されるべきだと思う」。
東原に「2050年の会社組織というものがどうなっているか」を尋ねた。「株式会社というかたちが残るかはわからない」と述べたあと、会社が真の意味で「社会に溶け込む」未来像を語った。
「生活者と生産者の間で価値創造が進むと、私たち企業は『単体の会社』という形態でなく、インフラを支える会社群、あるいはコミュニティのような姿に変化しているかもしれない」
ひがしはら・としあき◎1955年、徳島県生まれ。77年、日立製作所入社。90年、ボストン大学大学院コンピュータサイエンス学科修了。日立プラントテクノロジー社長を経て、2014年に執行役社長兼COO、16年に執行役社長兼CEO、21年6月より現職および日本経済団体連合会副会長。