そんな構想を実現するのが、日立が16年から力を入れる「Lumada(ルマーダ)」と名づけたデジタル・プラットフォームだ。目的はDXを目指す組織に対して、先進的な技術やノウハウを提供すること。20年11月からLumadaはアライアンスプログラムを発表し、パートナー企業や顧客企業同士の連携をよりスムーズにしたことで、オープンイノベーションの促進を狙う。
21年4月、東京・丸の内に日立が開設した「Lumada Innovation Hub Tokyo」は、社会のDXを推進するための拠点施設。多様なステークホルダーをバーチャルとリアルの環境でつなぎ、イノベーションの活性化を支援。
日立はLumadaのデジタル技術をエンジンとして社会イノベーション、つまり「社会インフラごとDX化する事業」(東原)を推進しようとしている。 Lumadaを活用すれば、センサーやカメラで得た情報をAIなどで分析し、画像解析や予兆検知を実現できる。こうした技術をパッケージ化していくことで、国や地域ごとに最適なサービスを組み合わせ、迅速な導入が全世界で可能になるという。
グローバル企業の日立がフォーカスする3つの事業テーマは、いずれもサステナブルな社会の構築に欠かせない。まず、カーボンニュートラル(炭素中立)を実現する「環境」。次に、災害時でもインフラやサプライチェーンが崩壊しないように備える「レジリエンス」。そして、新型コロナウイルスなどによる感染症を克服し、100歳代まで健康に生きるための医療環境をつくる「安心・安全」というテーマである。
1995年、40歳の東原はJR中央本線の交通制御システムの開発を担当していた。相模湖駅から東京駅まで各駅に制御システムを導入するという、自らにとって社会インフラ事業の原点だった。「トラブルが発生し、当時は徹夜もして苦労したけれど、その仕事で『社会貢献の重要性』を実感したことが私の原体験になった」と振り返る。
未来の企業体はどのように変わるか
東原の社長就任前、日立が苦境に直面した時期があった。リーマン・ショックの影響により09年3月期には当時、国内最大規模の7873億円の最終赤字を計上している。その後、社長に就任した川村 隆が子会社を整理統合することで巨大組織を効率化させ、さらにカンパニー制の導入で業績のV字回復を果たした。
しかし、そのカンパニー制がいつしか「縦割り構造」を生み、再び機動性を欠くことにつながった。そこで16年、社長兼CEOに就任した東原はカンパニー制を思い切って廃止。売り上げ規模が2000億~3000億円規模のビジネスユニット(鉄道、産業・流通、電力など)を設定する一方で、17年からは1兆円規模の5つのセクター(モビリティー、エネルギー、インダストリー、ライフ、IT)を新たに構築して副社長をそれぞれの担当者にした。
営業利益率などの収益面は、小さなビジネスユニットで細かく追う。成長戦略を描くためには、大きなセクター単位に巨額の先行投資をする。21年7月には約1兆円を投じて米IT企業のグローバルロジックを買収するなどM&Aを加速。「世界で戦える組織体制をつくらないと、やがて淘汰されてしまう」と東原は危機感を隠さない。