フォン・デア・ライエン委員長は演説で、欧州委員会は2027年までに新設した保健機関に60億ユーロを投じ、EU域内の国境を超えた公衆衛生緊急事態に対するレジリエンス強化に取り組む計画だと述べた。
この保健機関「欧州保健緊急事態準備・対応局(HERA)」は、演説翌日の9月16日に正式発足した。フォン・デア・ライエン委員長によると、HERAの目的は「地域的なウイルス感染症(エピデミック)が、二度と世界的大流行(パンデミック)へと拡大しないよう防止する」ことだと、ニューヨーク・タイムズ紙は報じている。
HERAは、既存の他のEU保健機関と並行して機能する予定で、感染症との闘いで主に必要となるワクチンや医薬品、医療機器を、EUが確実に開発・製造・配布できるようにすることが目的だ。
フォン・デア・ライエン委員長はさらに、EUが2022年半ばまでに、低所得・中所得の国々に対して新型コロナワクチン2億回分を追加供与することを発表。ワクチン入手を巡って世界的な格差が生じていることは遺憾であると述べた。
EUはこれまでに、ワクチンを2億5000万回分供給すると約束してきた。今回の約束は、総供与量をほぼ倍にするものだ。とはいえ、EUに向けられる目は厳しさを増す一方だ。以前に公言したワクチン供与が実行されていないうえに、裕福な国々で3回目のブースター接種が始まり、貧困国の多くがワクチンを一切入手できずに取り残されているためだ。
EU高官がニュースサイト「ポリティコ」に対して述べたところによると、これまでに発送されたワクチンは2000万回分にとどまっている。
HERA新設については、2021年2月に一度発表され、ポリティコがその概要と計画を何度か報じてきた。9月16日に正式設立されたHERAは、米国生物医学先端研究開発局(BARDA)に相当する機関になると見られている。
EUでは、成人の70%が新型コロナウイルスの2度のワクチン接種を完了している。数カ月前までは、欧州がワクチン接種率で世界的リーダーになれるとは見られていなかった。なかでも、米国や英国などがワクチンをかき集めるなかで、EUには集中的な調達システムがないことが強い批判を浴びていた。EUがこのたび新たに保健機関を設立したのは、そうした過ちから学び、将来に感染拡大が発生した場合に備えて対応力を構築したいという願いの表れだ。
フォン・デア・ライエン委員長は、ワクチン接種を巡って世界で格差が生じていることを批判するとともに、EU域内でも平等に進んでいないことを認めた。デンマークなど一部の国々では、2度のワクチン接種を完了した成人が90%近くに上る一方で、ブルガリアなどでは20%程度と低迷している。