小山薫堂(以下、小山):いま、「自分の建築をここに建てたい」と思う場所はありますか。
隈 研吾(以下、隈):水が好きなんです。湖のほとりとか、灯台の下とかいいよね。水は表情が変わるじゃない? ものすごく生きている印象があるから、建築も生命をもらえる感じがするんです。
小山:都会のビルなどはあまり魅力を感じませんか。
隈:都会のビルでも、ちょっとした借景の仕方なんかでいいものは建てられます。その場所ならではの“刻印”ができればいいわけで、都会にも隙間はあるし、風も吹く。要するに知恵や工夫次第かなと。
小山:“刻印”といえば、例えば東京周辺の昔ながらの銭湯は、城の櫓や天守を思わせる破風造りで、見た瞬間に「銭湯だ」とわかりますよね。同じ業種が同じような建築でたくさんつくられるというのは、意外と稀有な例ではないですか。
隈:そうですね。あれは関東大震災からの復興過程で流行ったんです。宮大工が庶民のために腕を振るった。
小山:街の景色をつくり上げるひとつの要素として、銭湯のあの形は印象的だし、残っていってほしい。銭湯は「公衆浴場」だけど、「公衆食堂」というのも昔あったんだそうですね。
隈:同潤会代官山アパートメントの中に、ありましたね。大学生のころに「同潤会アパートをどのように保全するか」という課題が与えられて、壊される前に行きました。公衆食堂はすごく格好いい空間だったけど、メニューは本当にひどかったな(笑)。
小山:僕、いまこそ公衆食堂が街に必要な気がするんです。これだけサステナブルだSDGsだと言いながら、日本はまだ年間の食料廃棄量が612万トン。東京ドーム約5杯分です。本気で解決したいなら、国が公衆食堂をつくればいい。世帯収入によって食事の料金も変えるとかも、国だからできる話です。
隈:それは小山薫堂プロデュースで、味もきちんとコントロールして、隈研吾空間でぜひやりたいですね。「食」は人間の根源的なところとつながっていて、人を幸せにする力がある。それを国がまず始めるというのは、なかなか面白いと思います。
食とデザインの関係に目覚めた万博
隈:薫堂さん、2025年の大阪・関西万博でプロデューサーをされるんですよね?
小山:ええ。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、さらに8つのテーマに分割し、8人のテーマ事業プロデューサーがそれぞれ担うことになりました。僕の担当テーマは「いのちをつむぐ」。簡単に言うと「食」を担当します。