村上春樹の小説が原作。映画「ドライブ・マイ・カー」が描く不信のとき

妻を失った男を通して描かれるのは、人間関係の危うさだ(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会


家福が愛車のハンドルを握るのは、妻の声でカセットテープに吹き込まれた上演台本を聴きながら台詞の確認をするためだ。言わば車は彼の仕事場の一部でもあるのだ。
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ある日、舞台の終演後、妻が知り合いの役者を紹介したいと家福の楽屋を訪れる。妻の作品によく出演しているという高槻(岡田将生)という若い男に、家福は妻との間で醸し出す微妙な親密さを感じたのだった。

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(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

海外の演劇祭に招かれ旅支度をして家福が空港へと愛車を走らせていた日、天候の悪化でフライトがキャンセルされ、仕方なく自宅へ戻る。家福が玄関のドアを開けて部屋に入ると、そこで目に入ってきたのは、鏡に映った裸の妻が男性と身体を重ねている姿だった。
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妻に気づかれないように、そのまま家を出る家福。翌日のフライトを待つため空港近くのホテルに投宿していたが、妻とのビデオ通話では、すでに海外に着いていることを装い、何事もなかったかのように振る舞う。

別の日、家福は妻から「今晩帰ったら少し話せる」と家を出るときに声をかけられる。家福はその言葉にいつもとは違う彼女の決意のようなものを感じる。しかし、妻の口からその「決意」を聞くことはなかった。彼女は何も家福に語らないまま、その日、クモ膜下出血でこの世を去ってしまったのだ。

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(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

2年後、家福は地方の演劇祭での演出を依頼され、東京から愛車を走らせる。滞在は長期にわたるため、安全を鑑みて、主催者側は専属ドライバーを用意していた。車のなかで台詞の確認をする家福は、その申し出を固辞するが、試しに握らせたその若い女性ドライバーみさき(三浦透子)のハンドルさばきに感心して、愛車の運転を任せることにする。

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(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

演劇祭の演出はオーディションから始まることになっていたが、家福はその応募者のなかに、かつて妻から紹介された高槻がいることに気づくのだった。

村上春樹作品と共通するテーマ


映画「ドライブ・マイ・カー」は、上映時間3時間にも及ぶ内容のため、劇中劇としてサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」やアントン・チェーホフの「ワーニャ伯父さん」のシーンなどが盛り込まれている。

これは海外の映画祭で多くの受賞を果たした濱口竜介監督の出世作でもある「ハッピーアワー」(2015年)でも採り入れられた手法だ。「ハッピーアワー」は「ドライブ・マイ・カー」よりさらに長い5時間17分の作品だが、主人公たちが参加するワークショップの模様が多くの時間を割いて描かれている。

濱口竜介監督は、東京大学文学部卒業。在学中は映画研究会に所属していたが、その後、東京藝術大学大学院映像研究科に進む。大学院の修了制作である「PASSION」(2008年)が海外のサン・セバスチャン国際映画祭で高い評価を得る。

前述の「ハッピーアワー」では演技経験のない女性4人を主演に起用、作品は第68回ロカルノ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門で最優秀女優賞に輝いた。
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文=稲垣伸寿

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