カンヌも騒然 車を偏愛する女性を描いた異色作「TITANE/チタン」

「TITANE/チタン」4月1日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー (c)KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

「TITANE/チタン」4月1日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー (c)KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、アカデミー賞で国際長編映画賞に輝いた。そもそもこの作品の賞レースでの快進撃が始まったのは、去年7月、2年ぶりにリアル開催された第74回カンヌ国際映画祭での脚本賞受賞 (濱口竜介、大江崇允共同脚本)からだった。

日本映画としては初のカンヌ国際映画祭での脚本賞受賞だったが、このとき、同じコンペティション部門で競い、最高賞であるパルム・ドールを受賞したのが、フランスの女性監督ジュリア・デュクルノーの「TITANE/チタン」という作品だ。

女性監督のパルム・ドール受賞は、1993年の「ピアノ・レッスン」のジェーン・カンピオン以来2人目だったが、それよりも話題を集めたのは、この受賞作の衝撃的な内容だった。

「TITANE/チタン」は、頭にチタンプレートが埋め込まれ、それ以来「車」を性的な対象とするようになった女性の物語で、流血シーンなどショッキングな映像も多く、映画祭の上映では退席者が続出したという。

審査員長を努めた映画監督のスパイク・リーも「こんな作品は観たことがない」と評したほどの独創的な内容で、デュクルノー監督自らも「自分の作品はモンスター」と言い切るほど、これまでのカンヌ国際映画祭にはなかった「怪物作」とも言われている。

作品の前半はボディホラー?


アレクシア(アガト・ルセル)は幼い頃、父親がハンドルを握る車に乗っていたとき自らの奔放な行動により交通事故を引き起こし、頭部に瀕死の重傷を負う。手術で頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれた彼女は、以来、車に対する偏愛を抱くようになる。


(c)KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

成長してダンサーとなったアレクシアの側頭部には手術の痛々しい傷跡が残っていた。モーターショーで披露されていた彼女のパフォーマンスは一風変わっており、車を性的対象としたようなセクシーなもので、会場でもひときわ注目を集めていた。

アレクシアが会場を後にしようとすると、ファンだと称する男性から熱烈な告白を受ける。しかし、彼女は男性を受け入れると見せかけて、一刀両断で殺してしまう。実はアレクシアはシリアルキラー(連続殺人犯)でもあり、関係を持った同僚の女性や自分の両親まで手にかけてしまう。

行き場を失ったアレクシアは、10年前に行方不明となった少年になりすまし、その父親である消防士のヴィンセント(ヴァンサン・ランドン)に引き取られる。胸に布を巻き女性であることを隠し、父親と息子として暮らし始めた2人だったが、アレクシアの身体には不気味な異変が起こるのだった……。


(c)KAZAK PRODUCTIONS – FRAKAS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA – VOO 2020

主人公の設定が、車を性的対象とする女性でシリアルキラーとなれば、展開される内容は推して知るべしだろう。作品の前半ではスキャンダラスでバイオレンスな(でも美しい)映像が頻出し、前述のようにかなりショッキングな内容となっている。

特にアレクシアがダンサーとしてモーターショーで妖しいパフォーマンスを見せる場面では、彼女と車の絡み合うシーンが物語への入口となるだけに、かなり強烈な印象を残し、この作品の見どころのひとつとして数えられる。

とはいえ、これまで作家性や芸術性が高く評価されてきたカンヌ国際映画祭、それも最高賞であるパルム・ドールの受賞作品となれば、ただ鬼面人を驚かすだけの作品ではないことは確かだ。
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文=稲垣伸寿

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