ビジネス

2021.09.03

世界は「AI経営」へとシフトする。いま、求められる未来をつくる人材とは

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左:染谷隆夫 東京大学大学院工学系研究科長・工学部長 右:桂 憲司 PwCコンサルティング 常務執行役 パートナー


染谷:
今回、AI経営寄附講座の第1回を終え、まず言えるのが学生の期待、あるいはフィードバックが我々の想像を超える、ポジティブかつ大きなものだったということです。

新設された講座に200人を超える学生が集まり、しかもそれぞれのフィールドや学年も多岐にわたっている。それでいて講義後のアンケートで「すごい満足」「満足」が合わせて92%というのは驚くべきこと。満を持してスタートさせた講座ですが、第1回は非常にうまくいったと自負しています。

桂:初回のセッションを講義と議論でインタラクティブにさせていただいたところ、多数の鋭い質問を頂き、学生の方々の関心の高さがうかがえました。我々としても大きな手応えが感じられました。

染谷:これほどまで人気だった理由のひとつは、やはりタイムリーだからでしょう。いままでは新しいカリキュラムの場合、2、3年かけてつくり上げることも多かった。じっくり時間をかけた教育コンテンツは貴重ですが、昨今は、特に新領域に関してはいち早く学び始めることを優先すべき場合もある。基礎力をしっかり養ったうえで、新しい部分にスピーディに対応してバランスを取っていくのは大切です。

桂:いま必要なものを、必要なタイミングで届けるにはその都度中身を変えなくてはいけません。もし来年同様にAI経営の講座を開講する場合、コンテンツも対応する人材も違ってくるでしょう。それこそまさにアジャイルです。「何か別の要素を取り入れようか」みたいな話もあるかもしれない。発展・改善のパターンが広がると思っていて、我々もそこはワクワクしていますね。

染谷:産業界の方が、ある意味、私たちと責任を共有し合い、新しい人材を育成していくこの流れは、大学にとって大きなチャンスで、いっそう加速していかなければと考えています。

いままでは「卒業後はうちの会社に来るのか」といった議論が度々なされてきましたが、今回のAI経営寄附講座は対価性がありません。つまりPwC Japanグループにとっての成果物は、特許を得られるとかではなく、「よい人材が生まれ、彼らがどの企業に勤めるかわからないまでも、日本をきっとよくしていくだろう」という期待です。そこまでして産業界がそういう人材を欲しているというメッセージです。努力して学んだ後に活躍の場が整っていることは、学生にとってとても大事なことです。

産学連携で知のハブを目指す


染谷:
AI経営寄附講座の学生の反応を見て、これをAI人材の育成だけでなく、より広範囲な産業領域で次世代人材を輩出していくためのモデルケースにしたいと思っています。企業と大学の関係を再定義し、新しい距離感を築きたいですね。

大学はその昔は中立であることに固執しすぎて、自ら壁を高くして社会から乖離してしまったという反省がある。もちろん自由に学問が行えるためには中立性が保たれていなければならない。ただ一方で、大学と企業の距離が遠すぎると、大学で生まれた研究成果が社会実装まで至らないケースも多い。

この講座も、社会が必要としていながら大学が手を打ち切れてなかった部分で、業界のリーディングカンパニーが大学のなかに踏み込み、共にやっていきましょうと実現したわけです。今後は公共に資するもので、大学が中立を保てるものに関しては、産業界と適切な距離感を保ちながら、積極的に進めていきたい。そういう意味で、これは大きなスタートだと思っています。

桂:各大学には無形の知的財産(IP)が蓄積されています。それらを社会実装させる過程において、企業に眠るIPともつなげて、新たな価値を生み出していくことが大切です。そういった新たなバリューチェーンの分析をしたうえで、どういった新たな価値を見いだせるのか。

PwCコンサルティングは、AIを活用し、IPを起点としたアライアンス戦略策定を支援する情報分析ツールを開発。現在、企業と企業や、企業と大学をつなげていくという試みを実際に始めています。AIはそういう分野でも活用されていくだろうと思っています。

染谷:現在、東大発のスタートアップは430社を超え、そのうち22社が上場を果たしました。アメリカのトップ校には及ばないまでも、後を追うほかの国々の大学と比べてすでに遜色ないレベルです。ただ、現状は成功している企業の産業が、AIなどの情報と創薬・バイオ関連に偏っています。

工学部としては、ほかに将来性のある領域も多いので、今後はいままでに学んだことを横展開し、ディープテック系の分野へ発展させたい。規模も拡大させ、グローバルに成長していく企業を育てていきます。非常に野心的ですが“工学部発1兆円ベンチャー創出”が旗頭です。

そして大学としては、東大をハブに多様な企業とコラボレートしていく。ネットワークを広げながら難しい社会課題の解決に臨むことで、知的な無形資産を社会に還元する活動を、もっと力強く行っていきたいと思います。


かつら・けんじ◎事業会社を経て大手コンサルティング会社に入社。プライスウォーターハウスクーパース(現PwCコンサルティング)にて、電機/情報通信/エンタメ/メディア業界向けサービスの統括責任者、新興国進出支援室室長などを歴任後、PwCシンガポールに赴任。2018年4月より現職。

そめや・たかお◎1997年東京大学大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。東京大学生産技術研究所助手、東京大学先端科学技術研究センター講師、東京大学大学院工学系研究科教授等を経て、2020年より現職。

text by Fumihiro Tomonaga | photographs by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro

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