テクノロジー

2021.09.03 12:00

実用化が進む世界のワクチンパスポート ブロックチェーンの活用と現状

ワクチンパスポートのイメージ(Morsa Images/Getty Images)


ワクチンパスポートに求められる要件


ワクチン接種に関する情報は、個人のプライバシーと社会の防疫、その双方に密接に関わっています。そのため、求められる要件も通常のシステムとは異なります。
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ワクチンパスポートをめぐる議論において重要視される主な要件は以下の4つです。

第1の要件は、ワクチンパスポートの情報を公衆衛生向上のために柔軟に活用できるかということです。ワクチンパスポートがデジタル化され、スマホアプリなどで利用できれば、海外渡航のみならずスポーツ観戦やイベント参加、飲食店の入店可否の判断に用いることも可能となります。また、得られる統計情報を踏まえてさらなる感染拡大を抑止することも可能でしょう。

第2の要件は、それが国や自治体をまたいで利用できるかということです。渡航時に目的地で提示することが大前提である以上、仕様の共通化やシステム管理者の分散および各地の認可基準の変化への柔軟性が求められます。
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第3の要件は、ワクチンパスポートに記載されている情報の正確性です。これはワクチンの接種状況という情報が各国の公衆衛生上の安全保障に直結しているためです。ところが、券面発行されたパスポートには偽造や不法販売の懸念があり、5月には米国カリフォルニア州でワクチン接種証明カードの偽造品を1枚2000円で販売した男性が逮捕されています。

第4の要件は、利用者のプライバシー情報に関する自己決定権を損なわないことです。ワクチンを打つか否かは個人の選択に委ねてられており、強制されるものではありません。そのため、少なくとも接種状況を誰に開示しどのように利用するかを、個人が主体的に選択できなくてはなりません。また、ワクチンを打たない人が差別的な扱いを受けることや、ワクチンを接種した人が選択的にマーケティングの対象になるような事態を防ぐ必要もあります。

ブロックチェーンの活用が有効


このように、ワクチンパスポートについてはさまざまな問題が複雑に関係してきます。そこで注目を集めているのがブロックチェーンの技術です。

日本では限定的な海外渡航のユースケースに合わせ、既にアナログ媒体での発行を開始していますが、経団連からは「ワクチンパスポートは、簡便かつ真正性を担保できるデジタル形式での実装を進めることが重要」「ブロックチェーン等の技術活用によってプライバシーを確保した上で効果的に活用できる仕組みづくりを」という提言が行われています。

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ドイツでは6月10日、スマートフォン用のデジタル・ワクチン接種証明書となる「CovPass」アプリが公開された(Pool/Getty Images)

ブロックチェーンが期待されているのは、以下の3つの性質を有するからです。

第1に、ブロックチェーンはシステムを一元的に管理する主体を持たず、システムを分散化して運用することが可能です。特に、グローバルな協力体制が求められるワクチン対応においては、特定の国や企業がシステムを提供するよりも、参加者が合議体(コンソーシアム)を形成してシステムを連携させることが望まれるでしょう。

第2に、ブロックチェーンは情報の正確性と追跡性を担保することに長けています。ブロックチェーン上の情報は改ざんが困難であるだけでなく、出来事を時系列で遡って検証する用途に適しており、この性質を活かして偽造や盗難ワクチンパスポートの流通を防止することが可能です。

第3に、ブロックチェーンで利用されている認証システムや秘匿化システムは、個人情報を利用者の手元で管理することに適しています。通常、個人のプライバシー情報は、サービス提供側のサーバー内で管理されることがほとんどですが、ブロックチェーンを利用することで、重要な情報は個人の端末内に留めたまま、その情報に基づいた「入場可否」などの結果だけを検証することが可能になります。
次ページ > ブロックチェーンの実用例

文=森川夢佑斗

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