ビジネス

2021.07.29 08:00

異分野の想像力をつなげて学ぶ「未来の組織、働き方」の本質とは


INTERVIEW 3

小・中学生も参加する未来の街づくり 鍵は「細かいことを決めすぎない」


中村彰二朗 Accenture 山口功作 元エストニア投資庁

スマートシティというと、テクノロジーを活用した映画『ブレードランナー』のような未来都市に例えられることが多い。しかし、スマートシティとは、それぞれの地域が街の特徴を大切にしながら、デジタルを使って真の豊かさを追求し、その恩恵を市民に還元していくことである。

まさしくそれは、いま、注目を集めているDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念、そのものだ。私たちはいかにデジタル社会のなかで、人々の「Well-being(ウェルビーイング)」をつくり出すことができるのか。

「『第二列島改造論』だとか、『分散の時代』だと言っているのに、みんな東京に住んでいるでしょう。このつじつまの合わなさにずっと違和感を覚えていた。だから移住を決めた」

アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括である中村彰二朗はそう話す。東日本大震災後の2011年8月に福島県会津若松市に移り住み、10年近くに渡って、スマートシティ・プロジェクト「スマートシティ会津若松」に携わっている。

また、元エストニア投資庁日本支局長で、現在、香川県高松市でスマートシティ構想「スマートシティたかまつ」に携わる山口功作も、18年にゆかりもない都市に移り住んだひとりだ。世界最高峰の電子政府を整備するエストニアで15年にわたって国・政府のDXを見続けてきた山口は、自身の知見を生かし、高松で「デジタル社会」の創設や、教育改革に取り組んでいる。

中村は次のように話す。

「平井卓也デジタル改革担当大臣は『DXは人間中心』だと言う。台湾デジタル担当相のオードリー・タンも『DXは人と人とをつなぐ』と話している。つまり、スマートシティ構想の重要なところは、市民中心、人間中心です。私たち一人ひとりが腹落ちしなければ絶対に成功できない。だからこそ、『オプトイン社会』を目指しています」

オプトインとは、マーケティング分野でよく使われる言葉だ。企業がユーザーに広告配信する際、事前に許可を求めること、また、ユーザーが明示的に快諾することを指す。住民の同意を得たうえでデータを収集、活用することであり、「自分の意思で、自分がもつデータを地域や次世代のために使っていいですよ、と提示すること」を意味する。

会津若松市では、市民が自身の意思でエネルギーデータを提示することで、省エネの方法がわかり、電気代が下がったというケースも相次いでいるという。またこの行為自体がSDGs(持続可能な開発目標)への参加にもなる。

「住民たちがまちづくりを自分ごとにする、それがスマートシティのベースです」

目指せ「ローカルSDGs」


「スマートシティとは、未来をつくっていく作業」と強調するのは山口だ。「たとえば、30年後の社会を考えたとき、ステークホルダーは誰かというと、いまの小学生、中学生です。だから、彼らを未来人と設定し、街づくりに参加してもらう。大人と子どもという分断をしたくありません。30年後には『石器人』となる世代は環境を用意するだけ。レールは一切敷かないようにします」

市民や人間が中心となるスマートシティ。しかし、ステークホルダーが多くなればなるほど、いかに合議の上で決定するか、また、リーダーシップを誰が取るかなど、複雑な問題も浮かび上がる。どう対処するのか。
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文=谷本有香

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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