昨今、ビジネス界で注目されている考え方に「アートシンキング」がある。定義はまだ確立されてはいないものの、これまでの既成概念を外し、革新的なアイデアのためにクリエイターの思考法を使い、価値を再定義したり、アウトプットしたりする思考として理解されている。シラウキは次のように話す。
「予期できないものを受け入れる能力や、どれだけ自身がオープンであるかの試金石です。現状に対抗する新たな挑戦とも言えます」。
では、どのように私たちはアートシンキングを学べばよいのか。「大切なのは、プロセスの共有です。人々とのダイアログ(対話)を通じて、共通の知識や体験を協力しながら共有し、学んでいく。その姿勢そのものなのです」
シラウキは「私たちはすでに未来に生きている」と強調する。その理由としてあげるのは、「未来は誰か一人の思いや、何かひとつの考え方や未来像でできるものではありません。どのような世界をつくっていくべきか、集団の知恵で共創していく。そのために、多様性あふれる人たちと、インクルーシブな対話をもっと設けていく必要がある」という考えだ。
ビルバオ・グッゲンハイム美術館では、建設過程で地域経済、文化、歴史、人々との交流をしてきた。
彼が所属する美術館は、ビルバオという地を変革させるきっかけとなったことで有名だ。建設の過程で、地域への歴史だけでなく産業、地理、文化的なものも含めての深い理解と、未来に対する考え方を、地域経済、文化、人々との交流を通し、美術館の存在意義とともに育ててきた。まさしくその確立の過程は、アートシンキングそのものであり、私たちが学ぶべき「あり方」だと言えるだろう。
人間にしかできない想像、創造性が発露する環境設定、個々人の幸福を一義とするアーキテクチャ、未来創造のための対話—。いずれの言葉にも新しい時代の人と組織のあり方のヒントが詰まっている。日本人は古来から微生物と共存してきた。発酵にカビを排斥するという概念はない。すべてを包括し、互いに作用させることで新しい価値が生まれる。この原点に私たちは立ち戻る必要があるのではないか。