いたずらに起業家をヒーロー扱いする危険性
起業家を増やそうとする取り組み自体は非常に素晴らしいと思うし、国の将来にとってもポジティブな影響があるだろう。
しかし、場合によっては、少し起業家を美化しすぎているきらいもある。これは、起業家が少なかった日本における”よりもどし”なのかもしれないが、スタートアップや起業家にきらびやかなイメージを与え、誰でも起業しろ、などとあおるのは危険だと思う。
最近流行りの「みんな起業しよう!」はかなり無責任に感じる。若くて起業しただけで注目が集まる。しかしその後、祭り上げるだけ祭り上げて、上手くいかなかったらストンと落とす文化においては、起業家の精神的リスクもかなり高いだろう。
多くのスタートアップは、外から見えるグラマラスなイメージとは裏腹に、その中身はかなりドロドロとしている。成功率が10%以下と言われるかなり厳しい世界では、上手くいく方が珍しい。
それだけ覚悟と理解が必要だろう。もしくは、多少失敗してもあまり気にしないお気楽さを持ち合わせているとか。だから、誰でも起業するべきではないし、起業しただけで安易に持ち上げるのも良くない。
起業家には向き不向きがある
そもそも起業家はとても特殊な仕事内容で、誰にでも向いているわけではない。実際、全人口の起業家率はわずか8%である。
起業家に向いている人は、やはり少し変わったところがあるし、一般的な価値観を持ち合わせていない人も多いように感じる。言い換えると、それほど珍しい存在。なので、周りとは感覚が合わず、自ずと孤独になる可能性が高い。
イノベーターと呼ばれる人たちは物事を違う角度から見る。スティーブ・ジョブスの言葉を借りると、「クレイジー、反逆者、変わり者」なのである。
シリコンバレーの著名投資家であるロン・コンウェイも下記のように語っている。
起業家には生まれつきの向き不向きがあると思っている。僕が思うに起業家に向いている人は起業家の遺伝子を持っており、一生起業家として生きていくだろう。一度起業してその後大企業に普通に勤められるケースはとても少ない。
起業家はメンタル的にもかなりタフな仕事
実際のリサーチ結果を見てみても、起業家がどれだけメンタルにキツい仕事かがわかる。
米国国立精神衛生研究所の調査によると、起業家の72%がメンタルヘルスの問題から直接的または間接的な影響を受けている。これは、非起業家の48%と比べると非常に高い数字である。
また、カリフォルニア大学が行った調査によると、起業家の49%がADD、ADHD、双極性障害、依存症、うつ病、不安症のどれか一つを患っており、約1/3がこの2つ以上を患っているとの結果が出ている。これは、アメリカにおける全体の割合から見ても高い数字だ。
また、同大学バークレー校のマイケル・フリーマン教授によると「エネルギッシュでモチベーションが高く、クリエイティブな面を持つ人は、起業家になる可能性が高いと同時に、強い感情を持つ可能性も高い」とのこと。その結果、メンタルがやられる人も少なくない。
起業家はその立場上、誰にも相談できないことも多く、一人で乗り越えなければならないことばかりである。スタッフには常にポジティブな態度でいなければならないし、日々の仕事ぶりをこまめに褒めてくれる存在も少ない。なのに、上手くいかない場合は、全て自分が責任を負わなければならない。
経営者が孤独と言われるのも理解できるだろう。