この報告書を手に、経済産業大臣の梶山弘志氏との対話を実現。その提言は政府が6月18日に発表した「2050 年カーボンニュートラルに伴う グリーン成長戦略」に盛り込まれた。
メンバーの中心にいたのは、当時リクルートキャリアから経済産業省へ出向していた杉山実優さんだ。30年後を見据えて、若者による提言を国へ届ける取り組みとは。そして、その中で杉山さんが担った役割とは。
未来を創る政策の議論に“当事者”がいない
杉山さんが経済産業省に出向したのは社会人3年目、24歳のときのこと。2019年4月から2021年3月までという2年間の期限付きだった。同社から官公庁への出向制度ができて2回目の出向者だったという。
着任したのは、科学技術によるイノベーションを推進する産業技術環境局。中でも産学連携を担当することになった。
出向してまず取り掛かったのは、20~30代で議論する場をつくること。そのきっかけとなったのは、省内のある有識者会議における京都大学総合博物館 准教授 塩瀬隆之氏のひと言だった。
「バブル崩壊以降について僕たちは『失われた30年』と勝手に呼んでいますが、それって、この30年間に生まれた若い人たちに失礼じゃないですか?」
それを聞いた杉山さんはハッとした。コロナ前だった当時、会議場は黒ずくめのスーツを着た100人余りの中高年層で埋め尽くされていた。
杉山さんは、そこに平成生まれは6人ほどしかいなかったはず、と振り返る。
「政策の議論がどこか腑に落ちないという感覚だったんです。出向して日が浅いから政策に詳しくないですし、科学技術の知識もないためかと思っていたのですが、世代間の価値観のギャップという理由もあるかもしれないと思いました。たしかに政策立案には、経験豊かな有識者の知識が必要ですが、そうなるといつも中高年だけで議論せざるをえない。じゃあ同じ世代の理系分野で活躍する人たちに、政策をどう思うのか聞いてみよう、そう思ったんです」
そこで、若手が集まる有志団体「官民若手イノベーション論ELPIS」(以下、ELPIS)を立ち上げ、定期的に会合を実施。出てくる意見はやはり杉山さんにとって納得感のあるもので、それを省内で紹介するうちにベテラン官僚からも面白いという声が集まり、経産省で初めての35歳以下の委員による「若手ワーキンググループ」という審議会へと発展した。座長は、塩瀬氏に打診した。
当時の経産省副大臣 牧原秀樹氏も、ELPISで未来に向けた価値観をまとめた報告書に興味を持ち、この若手ワーキンググループにも毎回陪席して議論に耳を傾けていたそうだ。
この若手審議会がひと段落した2020年秋頃、政府では2050年カーボンニュートラル実現を目標とすることが掲げられ、「30年後を考えるのであれば、そのときまで現役世代である、いまの20~30代が議論することが必要であろう」という梶山大臣の言葉から、カーボンニュートラルについても若手審議会が立ち上がることに。前述の若手ワーキンググループをすでに実施していた経緯から、杉山さんも事務局に入ることとなった。
持続可能な経済について関心のあった杉山さんは、カーボンニュートラルを機に経済のあり方まで踏み込んだ議論をしてみようと考えた。