この問題をめぐる議論はその後も続き、2008年の金融危機後に再び活発になった。米証券取引委員会(SEC)は2010年2月、上場企業に対してリーダーシップ構造の開示とそれが適切である理由の説明を義務づける規則を定めた。
こうした動きに、株主や議決権行使助言会社、規制当局の圧力も加わり、会長とCEOの役割を分離するという、ゆっくりとした、だが着実なトレンドが広がってきた。幹部人材紹介会社クライスト・コルダーのピーター・クライスト会長は、「一度これらの役割が切り離されると、元に戻ることはめったにありません」と話す。
例外は、成功しているCEOが会長職も望んでいる場合だ。その場合の会長兼務は、CEOとしての仕事を評価しての昇進という扱いになる。たとえば、ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラがそうだ。彼女は典型的なパターンをなぞり、CEO就任から2年後に会長を兼務している。
ナデラが異例なのは、彼の場合、会長に就く前にCEOを7年間も務めた点だ。今回の決定は、現在の状況を乗り切っていく取締役会の能力に関して、いくらかの不満や問題点の認識があったことを示しているのかもしれない。
クライストは「自分としては、会長とCEOの役割は分離するのが正しいと強く信じています」と述べ、こう続けている。
「強いCEOに立ち向かえる取締役は多くいるとはかぎりません。報酬の傾向がどうなっているか見てごらんなさい。報酬はいつ減少し出しそうでしょうか。いつになってもそうなりそうにありません。(取締役会が)できる限り自律性をもつようにすることが重要なのです」