ベルリナーレでは、コロナ禍における初の取り組みとして3月にオンライン上で審査が行われ、受賞が決定していた。6月に入りコロナ禍におけるドイツのロックダウン(都市封鎖)措置が大幅に緩和された情勢を受け、20日まで市内各地の野外上映館で120本以上の作品が一般向けに開催されている。今回Forbes JAPANでは、ベルリンでの『偶然と想像』公式上映に合わせて、現地に滞在中の濱口監督に独占取材をした。
西洋映画に見出した「会話劇」ならではの魅力
──ベルリナーレのコンペティションに選出。3月にオンラインの審査会を通じて銀熊賞を受賞。そして今回来独を果たし、6月13日の授賞式の場に参加されるまでの率直な感想を教えてください。
受賞に関しては「まさか」という驚きの気持ちでしたね。まず2月のコンペに選出された時点で、我々として十分に満足するところもあったので。国際映画祭というのは、枠にとらわれずに評価するというのが一つの役割であることはもちろんですけど、オムニバス作品(1つの物語が40分程度の3部作)である「偶然と想像」が賞を取るとは、正直なところ予想していませんでした。
──今回は脚本から手掛けられたとのことだと思うのですが、「偶然と想像」というタイトルや会話劇で繰り広げる展開は、どの段階で構想していったんですか。
「偶然」をシリーズにした物語でいこうと企画の段階で考えていました。内容は会話劇で、リハーサルで時間をかけて俳優さんと本読みを何度もする。そういう手法自体を試していきたいという考えがありました。内容はそういう目的から、ある程度自然に出てきたものです。
──プロットは本読みと同時進行で、書き換えていったのですか?
プロットはある程度しっかりとしていて、特にリハーサル中に変えるということはありません。会話劇とはいっても基本的にすべて脚本に書かれていて、即興はほとんどありません。まずは脚本を書いて、俳優さんサイドに「たくさんリハーサルを重ねます」というのをあらかじめお伝えした上で、キャスティングをする。合意していただけた俳優さんたちとプロダクションに入っていく流れでした。
──どの物語も話の展開がどちらに転ぶのか。次の発言によって一気にひっくり返る可能性がある流れがスリリングに感じました。これは行間を読む日本語ならではの表現特性かなと思ったのですが。
ありがとうございます。ただ、これは日本語に限ったことではないと思います。むしろ日本映画で僕が長編の映画を作り始めた頃は、日本国内の長編映画で会話劇というのはあまりなかったんです。どちらかというとヨーロッパ映画作品に多い印象です。どちらに転ぶのかはわからないという展開も、そういった海外の作品群から影響を受けているような気がします。
──では作品から得たインスピレーションを、日本の風土や枠組みのなかでいかに物語にしていくかというところから脚本作りを立ち上げたと。
はい。そういうことになると思います。