この研究は、ペンシルベニア大学および同大学の医学大学院に所属する科学者が主導したもので、人工知能(AI)と機械学習を活用して「揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)」と呼ばれる分子を分析した。VOCは、血液や組織を構成する細胞から放出される物質だ。今回の研究では、ナノセンサーを搭載し、VOCを検出するよう調整された「電子の鼻」が用いられた。
研究チームは、卵巣がんの患者20人と、非がん性の卵巣腫瘍の患者20人、そして腫瘍が全くない被験者20人から検体を採取した。検証の結果、「電子の鼻」は95%の精度で卵巣がんの検体を判別できることがわかった。
さらに、同じツールを用いて、すい臓がんの検体と対照群の検体についても同様の実験を行ったところ、90%の精度で判別が可能だった。また、少数の前立腺がんの検体を用いて、最近行われた別の実験でも、同様の結果が導き出された。
「研究はまだ初期段階だが、結果は非常に有望だ」と、この研究発表の主著者で、ペンシルベニア大学教養科学大学院教授(物理学・天文学)のA・T・チャーリー・ジョンソン(A. T. Charlie Johnson)博士は語る。さらにこのツールは、一部の検出システムで課題のひとつとなっている「がんの早期発見」が可能な点でも、特筆すべきものだ。
「研究データからは、進行したものとごく初期のもの、両方の腫瘍を特定できることが示されている。これはすばらしい結果だ」と、ジョンソン博士は付け加えた。
VOCパターンの特定に用いられている技術は、ヒトの嗅覚系が機能する仕組みと似ている。嗅覚系では、複雑に混ざり合った化合物の組成を脳が特定し、異なった臭いを区別して認識する。これと同じ仕組みを用いて、非常に鋭敏な嗅覚を持つ犬に関しては、爆発物や違法薬物、特定の食材を臭いで検出するよう訓練することが可能だ。さらに、訓練により犬にVOCの特定のパターンを教え込み、人間の疾病を検出することも可能だとする、複数の研究結果も存在する。
早期のがんをどの程度検出できるのか、さらには、局所的な腫瘍と、体の他の部位にまで転移したがんの区別がつくのかといった、このツールの具体的な能力については、今後の研究による分析が待たれる。
今回の研究チームは、VOCの検出による病気の診断を専門分野とする企業、VOCヘルス(VOC Health)と提携している。
「臨床の場で使用できるよう適切に開発が進めば、通常の採血時にも行われ、毎年の健康診断の項目に組み込まれる可能性もある」と、ジョンソンは今後の展望を述べた。