日韓両政府関係者によれば、韓国側は事前協議で日韓首脳会談の開催に意欲を示していた。これに対し、日本は2018年10月の徴用工判決や今年1月の慰安婦判決によって、日本企業や日本政府の資産が処分されることを警戒し、「被害が出ない措置を取らない限り、会談はあり得ない」という立場を伝えていた。それでも、韓国は「対話のなかで解決に向けた知恵を絞れば良いではないか」と粘ったが、日本は「韓国が自分で解決すべきで、日韓で協力する問題ではない」と突っぱねていた。
その際、日本は韓国側に「アドリブで、ソファに誘うような事はしないでくれ」と申し入れてもいた。これは2019年11月、タイ・バンコク近郊で行われた東南アジア諸国連合(ASEAN)+日中韓首脳会談の際、文大統領が当時の安倍晋三首相を控室のソファに招き、10分間の対話をしたことを指している。当時、韓国は日本に断らずに、対話の様子を写真撮影して公表し、日本側が不快感を示したことがあった。日本政府関係者は当時、「外交儀礼に反する、あってはならない行為」と怒っていた。
こうした形の接触は「pull aside meeting」と呼ばれ、日本外務省はよく「立ち話」と表現している。国連総会のように多数の国が一堂に会する場では、流れ作業のように、重要だと思われる国との個別会談をセットしていく。
ただ、会談する優先順位は低いが、相手の顔を立てる必要がある場合に、ごく短時間の立ち話をセットすることがある。あるいは、重要な国だが、お互いに触れたくない話題があるときに、「立ち話」という形で済ませることもある。立ち話であれば、それほど細かく記者団にブリーフィングしなくても良い、という利点もある。
また、2002年7月にブルネイで行われたASEAN地域フォーラム(ARF)で、パウエル米国務長官が国交のない北朝鮮と接触する必要に迫られ、当時の白南淳外相をコーヒーに誘い、その場でウラン濃縮疑惑を念頭に核開発への警告を発したこともある。