一方、「高付加価値」にはローカルな面もある。
経済産業省のクールジャパンプロジェクト「The Wonder 500」では、日本が誇る産品500品目が全国から選定されている。山口県から選ばれた5品のなかに、「フロートレモンティー」という商品がある。木原製作所の乾燥機によるドライレモンの輪切りと、国産紅茶のティーバッグをセットにしたものだ。
手がけるのは、同社から約10kmの距離にある光浦醸造だ。木原がうれしそうに語る。
「高校時代の同級生がやっているみそ屋です。みその替わりに新しい商品を出さないといけないとつくり始めたものです。いま、デパートなどですごく人気なんですよ」
木原の食品乾燥機を使って何かできないかという視点から生まれた商品だという。また、地元・山口市でも、特産品のエビ塩などの乾燥加工に乾燥機が活用されている。つまり、乾燥が地域振興に一役買っているのだ。木原は言う。
「乾燥機という特殊なものをつくっているので人の記憶に残るのか、相談を受ける機会が割とあるんです。ただ食品を乾燥すればいいということでなく、手にとってもらいやすい量やデザイン、ロットなど、お客様が売る商品を一緒に考えたりもします」
付加価値を高めるコンサルティングは、「お金は一切もらわない」。メディアに取り上げられれば木原製作所のPRにもなり、次につながる、という信念からだ。
乾燥機を売って終わりでなく、大きな感動につなげる。社業の転換期に社長となり、「かかわる人が皆よかったと思える会社にしたい」という願いを込めて「感動」のスローガンを掲げた木原は、いまでは7年連続の黒字を達成している。
乾燥した食品の一例。温風を当てて急速乾燥させるのではなく、食品の表面と内部からバランスよく水分を抜いていくことで、見た目にも美しく、香り豊かで食味に優れる。
需要の高まる穀物や魚介類の加工などで、世界の食品乾燥機市場は伸びており、同社も海外展開を視野に入れている。すでにタイとロシアに代理店があり、コロナ禍にありながら、海外からの受注は増加している。常に謙虚な口ぶりの木原だが、世界進出には自信がにじむ。
「世界で我々だけがもつ温湿度管理の技術は、仕上がりの品質がいいだけでなく、既存の乾燥機と比べて70%超の燃料消費量を削減できるというデータが出ています。高品質な乾燥と低ランニングコストという2つの強みで、競争力は極めて高いと思っています」
国内では、大手企業の試験乾燥機としての導入が相次いでいる。乾燥を利用した新商品の研究開発用だ。実際に商品化されることが決まれば、生産ライン用に相当な台数の乾燥機が必要になる。すでに発注がかかったものもあり、「手応えを感じている」と言って木原は微笑んだ。
「実は、皆さん絶対これ食べたことあるでしょう、という最終製品ももうあります」
木原が食品乾燥にかじを切らなければ生まれなかった「感動」を、消費者としての私たちも気づかないうちに味わっているのかもしれない。
木原製作所◎1902年創業の山口県の乾燥機専門メーカー。もともとは業界最古参の葉タバコ乾燥機メーカーだったが、タバコ産業の衰退を受けて、乾燥野菜やドライフルーツなど食品・農林水産物の乾燥加工分野に転じた。資本金は4500万円、従業員数は70人。
木原康博◎1977年、山口県生まれ。成城大学経済学部卒業後、米国の大学への留学を経て2003年、家業の木原製作所に入社。製造部長、取締役社長室長を経て08年、4代目社長に就任。葉タバコから食品へと事業モデルの転換を推進した。