ウッドショック禍でチャンスを掴めるか 国産材への非住宅分野での期待

森の循環には、木材の使用が不可欠だ


加藤さんや高濱さんも話していたように、伐り時にある木の価値を最大化するように使わないと、次の世代の若い木を育てる原資ができない。「伐って、使って、植えて、育てる」というサイクルを確立させることが、循環利用には不可欠となるという。「使って」需要を高めるということである。そのためには、非住宅などこれまであまり使われてこなかった領域にも足を踏み入れることが重要だという。

加藤さんが紹介した「都市の循環」(利用側)だけではなく、「森の循環」(産地側)もシステムに組み込むことで、価値の最大化を図ることができる。

短いサプライチェーンにより、顔の見える関係へ

食の世界では、農家と話し、顔の見える関係のもとで厳選された食材を調達するというシェフは多い。作り手の顔が浮かぶからこそ、その食材を大切にし、料理に創意工夫を凝らす。

今回の体験会は、その木材バージョンではないだろうか。「もり」側を知ることで、その木が育まれる過程で得たストーリーに思いを巡らせ、使い方にイノベーションを起こしていく。そのことで、サプライチェーン内での対話と信頼が生まれ、業界としてサーキュラーエコノミーへの移行を進めやすくなる。実際、「まち」側の参加者からは、「金銭で測れない価値がある」「木の需要を掘り起こす事例をつくりたい」など、肌で感じたからこそ得られた収穫があったようだ。

大消費地である東京都心から2時間未満でこのような大産地がある。誰が育てたのかがわかるには、ちょうどよい距離ではないだろうか。「まち」側と「もり」側の出合いには、サプライチェーンを短くし、CO2削減や地域の生態系を生かすことにもつながる効果も期待される。

コンセプトを含めた設計

単に木を製品や建築に取り入れるだけではなく、その木のストーリーに思いを馳せて、製品コンセプト全体に浸透させる。例えば、あきかわ木工連は、「木育」を軸に多摩産材が導入されている教育施設と産地を結びつけている。沖倉製材所の「東京十二木の家」は「オールトーキョー」の木材でできた家という価値を付与する。

2つの事例からは、使う側が木のことを熟知したうえで、コンセプトも含めた設計に生かしていることがいえるだろう。産地体験会は、まさに「まち」側によるコンセプトやストーリー探しといってもよいのかもしれない。

バイオ化とストーリー

サーキュラーエコノミーにおいて鍵となる「バイオ化」。その手段の一つに位置付けられる木材利用だが、意外と身近にある産地を自分の目で確かめることで、言葉には変えられない実感を得る。その実感は、今回のキーワードとなった「ストーリー」として参加者それぞれに変換され、デザインに組み込まれるに違いない。

追記:産地体験会の後、2021年春頃に始まったウッドショックの影響を受け、木材をめぐる国内状況にも変化が出てきている。同プロジェクトは国産材利用を促進の一助となるか。今後の動向にも注目したい。


【参考】もりまちドア オフィシャルサイト
【参考資料】スギ・ヒノキ林に関するデータ(林野庁)
【参考資料】木材供給量及び木材自給率の推移(林野庁)
【参考資料】令和元年度 森林・林業白書 (林野庁)
【参考】日本の森林 林業の今(林野庁)
【参考】秋川木材協同組合
【参考】多摩産材情報センター オフィシャルサイト
【参考】沖倉製材所 オフィシャルサイト
【参考】沖倉製材所東京十二木の家
【参考】do-mo kitchen CANVAS オフィシャルサイト
【参考資料】木材の材料としての特徴


(この記事は、2021年5月にリリースされたCircular Economy Hubの記事から転載したものです)

連載:国内外のサーキュラーエコノミー最新動向
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文=那須清和

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