加藤さんは、現在の日本の木をめぐる下記3つのポイントを示す。
1. 非住宅分野における国産木材利用への期待が高まってきている
2. 輸入木材は価格の高騰化や、違法伐採リスクがある
3. 新たな素材として期待感がある
企業による持続可能な調達に対する意識の高まりと基準の厳格化(上記2)に加え、森林を生かす環境は整いつつある。「利用の出口をつくる我々の出番です」と加藤さんは話す。上記3の「新しい素材としての期待感」にもあるように、利用側の期待にかかる。出口をつくるために、上記1の「利用への期待」を目に見える形にしていくことが肝要だという。
「もり」と「まち」が出合う場で 製材の現場を体験
今回レポートする産地体験会は、森の木が木材や木質空間へと姿を変えていく過程を辿る機会を提供する。多摩産材産地体験会では、「山林見学」「原木市場見学」「製材所見学」「多摩産材が使われているレストランでの意見交換」という供給網の上流から下流に向かう流れに沿って体験した。参加者は、工務店・デザイナー・プランナー・観光業など、いわゆる「まち」側から約30名。全体の案内役は、木材コーディネーターでもある髙濱謙一さんだ。
山林見学「ストーリーを生かす知恵がほしい」
髙濱さんのレクチャーによると、東京都の約4分の1が森に覆われているという。そのうちの約7割が多摩西部地域にある。東京都心部から2時間もかからない同じ東京都に豊かな森がある。遠くから木材を輸入しなくても、ここには森がある。大消費地東京に近い場所として、トレーサビリティが確保された木材を使うのは理にかなう。
「ここには木や森が育つストーリーがふんだんにあります。そのストーリーを付加価値として生かしていただくデザイナーの皆さんの知恵が必要なのです。例えば、この多摩産材の端材でできたコースター(下写真)。水分を発散させる効果もあるので、加工せずにそのまま使え、コースターとして適しています」と熱弁を振るう髙濱さんの言葉に、それぞれの参加者が木材の用途に思いを巡らせた。
秋川木材協同組合事務局長の髙濱謙一さん 多摩産材を「まち」側に伝える伝道師でもある
レクチャー後は実際に、「遊学の森」という田中林業が保有する山林に入った。針葉樹から広葉樹へと急斜面を登り、日当たりや地面の違いを肌で感じた。木が育まれる現場で、林業の仕事を体感する貴重な経験だ。
髙濱さんは、ここでもデザインと付加価値について強調。「急斜面を登る過程でも感じていただいたように、木を伐ることにはかなりの労力を使います。ただ伐るだけではなく、ストーリーを考え、それに見合った付加価値を与えられるようなデザインを一緒に考えていただけると嬉しい限りです」
「遊学の森」での体験。急斜面に参加者は息を切らす
原木市場「木の価値を見極める」
木が育つ様子を見た後に向かったのは、伐採された木が送られる東京都唯一の原木市場。多摩産材のすべては、月2回の競り市を経てここから出荷される。2019年は16200㎥の木材が取引された。曲がりのない原木など、製材所が判断するポイントを知ることで、どのような木に価値があるのかを理解した。
トレーサビリティ確保のために伝票や番号で管理している
多摩地域で生育し、適正に管理されたことを認証する「東京の木多摩産材認証制度」により、多摩産材の利用拡大を図る取り組みを行っている(多摩産材情報センターHPより)