夫馬(続き):特に日本ではマネーが足りていない。ESG投資も日本全体の18%と少なく、カーボンニュートラルなどへの銀行の理解も少ないので、企業としても環境対策をやりづらいのですよね。
良い企業かどうかマクロで判断する
NYNJ田中:投資家がESG投資の観点から企業の本気度に注目している一方で、若者も環境対策にきちんと取り組んでいる企業を見極めたいと思っています。就職活動をするなかで、若者が気候変動に本気で取り組んでいる企業を見抜くポイントはありますか。
夫馬:まずは自分が調べている企業が、どれだけ明確に長期的な計画を持っているかは見るべきです。そして、その企業が掲げていることと、いま実際に取り組んでいることが結びつくと感じるかどうか。厳密に調べようとすると専門性が高くなるので、まずは直感で大丈夫。もっと調べたいと思ったら、HPに掲載されている統合報告書などを読んでみて、その企業の言っていることと世間の言っていることを比較してみるといいと思います。
あと、アワードや表彰は無視してください(笑)。表彰は本当にたくさん存在するし、多くの表彰は審査手法も適当なので、その結果を鵜呑みにしないこと。逆に自分が審査員になった気持ちで、企業が向かおうとしている姿に共感できるかどうか、共感できたとしても本当に取り組んでいるか、「騙されないぞ」と思って見てください。
ソーシャルグッドな社会とは?(Shutterstock)
NYNJ田中:夫馬さんにとって、ソーシャルグッドな社会とはどんな社会でしょうか。
夫馬:それを考えるにあたって、まず大事なのは俯瞰して見ることだと思います。例えば、サプライチェーン全体を考えるには、商品や店舗だけを見ていてもわからないですよね。世の中は全て繋がっているので、マクロで見ないと本当の意味で自分たちがグッドなのかバッドなのかは見えてきません。そして、広く見ていると新たな問題が出てきて、それに対処するとまた別の問題が出てくる。ユートピアみたいに問題がなくなることはないと思うんです。ただ、少しずつ問題を小さくしていくことはできて、それにみんなでスピード感をもって対処していくのがソーシャルグッドな社会だと思っています。
取材を終えて
これまでもSDGsがボランティアのように扱われることに疑問を感じていましたが、いまだにそれが企業のブレーキとなっていることに驚きました。気候変動対策において日本の何歩も先をいく欧米を見ていると、なぜ日本は進まないんだろうと悔しさを感じている若者も多くいます。しかし、気候変動問題は若者だけが考えれば解決するものではなく、社会全体が一緒に取り組んでいく必要があると、改めて今回のお話からも確信しました。
夫馬賢治◎株式会社ニューラルCEO。戦略・金融コンサルタント。ESGやサステナビリティに関する経営戦略や金融の分野で東証一部上場企業を数多くクライアントに持つ。環境省、農林水産省、厚生労働省のESG分野政策会議委員。最近、新刊『超入門カーボンニュートラル』(講談社)を出版。その他にも『ESG思考』(講談社)、『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)など。国内外のテレビ、ラジオ、新聞などで解説を担当。ハーバード大学大学院サステナビリティ専攻修士。サンダーバードグローバル経営大学院MBA。東京大学教養学部国際関係論専攻卒。
連載:「U30と考えるソーシャルグッド」
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