夫馬(続き):企業や投資家からも次々とメッセージが出てくる。「次の株主総会に向けてやらなければいけないのは、環境対策と人権だ!」って。その動きを見た経済メディアが日本と海外の違いに気づき、夏頃からやっと日本にもSDGsという言葉が戻ってきました。昨年は前半と後半で、メディアのトーンが本当に変わった1年でしたね。
NYNJ田中:新型コロナの目先の危機対応に精一杯で、長期的な視点を持つことができない。そういう初手の遅さが日本と海外の差を生み出しているのでしょうか。
夫馬:その影響は大きいと思いますね。日本の経営者は、SDGsというのは寄付活動や社会貢献活動であるという認識でした。企業が財務的に厳しくなった時に、そういう活動をやらなくていいと判断したのが大きな誤認だったということです。海外では、むしろコロナ禍という厳しい時期にこそESGに大きく傾斜していき、それを見て自分達の考え方が違ったことを目の当たりにした1年だったのではないでしょうか。
社会転換にはマネーが必要?
NYNJ田中:気候変動やジェンダー問題に関して危機感を持って声をあげている若者のなかには、いまもなお環境汚染を続ける企業に対して不信感を持っている人も多いです。
夫馬:確かにこんなに産業界が後ろ向きな国は、他に見たことがない。だからこそ、企業は投資家たちにプレッシャーをかけられ続けているし、僕も「スピードを上げるべきだ」と言い続けます。確かに中国やインドなど新興国の方が、環境汚染物質の排出量は多い。けれど、対策をする方向に向かう力は日本の方が弱いです。
NYNJ田中:それは、気候変動対策をしなくてもまだ大丈夫だという安心感があるからですか?
夫馬:いえ、逆にいまとても焦っているからブレーキを踏んでいるんです。「環境対策なんてしたら、エンジンを作っている人はどうするのか? 石炭火力発電所で働いている人たちの雇用はどうなるのか?」という感覚がものすごく強いので、前向きになれないのだと思います。
先のことを見れば変わらなければいけないのはわかっているけれど、目の前のことに頭が集中しているのでしょう。どうしたら未来に向けて雇用転換ができるか、欧州で言われるジャストトランジション(公正な移行・公正な転換)という言葉は日本では出てこないですよね。
NYNJ田中:夫馬さんがよく用いる4象限の「環境対策に賛成」かつ「環境対策で利益は上がらない」という考えの人たちもいます。最近は、資本主義と環境対策の両立や、ビジネスで気候変動を解決すること自体が間違っているという意見もありますよね。この点、どうお考えですか。
夫馬:実は本当に気候変動問題に直面している人たちは、銀行、保険会社、年金基金などの金融機関のマネーの力を使うことで社会転換を図ることができると考えています。
経済認識に関する4分類モデル
例えば、国際環境NGOのグリーンピースなどは、北欧だと金融機関のアドバイザーをしていたりもする。カーボンニュートラルの流れを1番動かしているのは投資家なので、その口を封じてしまわないように、敵ではなくむしろ仲間として一緒に動いているのです。
京都議定書の時から気候変動問題の解決に取り組んでいる国連環境計画(UNEP)は、資本主義と環境対策が矛盾するという主張はしません。彼らは一貫して、資本主義を加速させることで気候変動を解決できると言っています。『不都合な真実』の著者であり環境への取り組みからノーベル平和賞を受賞した、元アメリカ合衆国副大統領のアル・ゴアも、現在はファンドの運用会社で自ら投資に関わっています。