ロシア軍特殊部隊も実践する「逆境に負けない」心と思考の作り方(後編)

システマ東京代表で公認システマインストラクターの北川貴英(photo by Daisuke Taniguchi)

システマ東京代表で公認システマインストラクターの北川貴英(photo by Daisuke Taniguchi)

「戦場」という極限状態で生き残ることを目的として考案されたロシア軍特殊部隊の教育メソッド「システマ」。ストレスフルな社会を生きる現代人にとっても学びが多い。

前編では、システマが武道愛好家や軍隊関係者に限らずトップアスリートやビジネスパーソンまで、さまざまな人に支持される理由や核となる4原則、究極の奥義である呼吸法「ブリージング」について、システマ東京の代表で公認システマ・インストラクターでもある北川貴英氏に語ってもらった。

続く後編では、よりメンタルマネジメントにフォーカスした「キープ・カーム」という教えと、新型コロナウイルスによって先行き不透明となった社会の中で、どういった心の持ち方と思考で生き抜いていくかについて聞いた。

>>ロシア軍特殊部隊も実践する「逆境に負けない」心と思考の作り方(前編)


あらゆるストレスに対処できる「キープ・カーム」という教え



photo by Daisuke Taniguchi

どんなに素晴らしい能力がある人でも、頭が混乱していたり、極度に緊張していては、その力を存分に発揮することはできない。そのためシステマでは心が落ち着いた状態にあることを重要視し、それを「キープ・カーム」という教えとしてわかりやすく説明している。

「カーム(Calm)」とは直訳すれば、穏やかなとか、静かなという意味だ。「キープ・カーム」とは、自分の心を風の凪いだ海のように安定させ、多少のことでは動揺しない状態で維持することを表している。

「私たちは朝から晩まで、1日中、無意識のうちに心を揺さぶられています。朝のニュースで不幸な事件を見れば、心が傷むでしょうし、会社に行って嫌な人間関係を目にすれば、気分がどんよりと沈みます。喜怒哀楽、さまざまな感情がものすごいスピードで湧いては消えていっているのです。それはまるで荒れ狂う海に浮かぶ小舟のようなもの。この事実に気づき、風の凪いだ海のように落ち着いた、本来の心の状態を取り戻すことが『キープ・カーム』の目的です」(北川氏)


システマの思想を体現したかのような落ち着いた語り口で、わかりやすく説明してくれた(photo by Daisuke Taniguchi)

では、どうしたら「キープ・カーム」を実践することができるのだろうか? そのキーワードは「回復」にあると北川氏は語る。

「日本では、泰然とした心の境地を『不動心』と言いますが、システマではまったく心が揺れ動かない状態だけでは不十分だと考えています。なぜなら、どんなに鍛え上げても、心は動いてしまうものだからです。

では、どうするか。動揺を感じたら、それが軽微なうちにすぐに対処し、もとの精神状態へ回復させるのです。そうすれば、負の感情が思考へ与える影響も最小限に抑えることができます」(北川氏)

つまり、動揺は絶対になくすことができないので、それが広がらないよう、早めに対処して、ダメージが軽いうちに心を回復させるというのがコツというわけだ。

精神論で語られがちな心の問題を合理的に考えて取り扱うスタンスは、さすが特殊部隊のエキスパートが考案したメソッドといえる。そして、この回復のための対処法にも前編でお伝えしたシステマの奥義「ブリージング」が有効だと北川氏は続ける。

「動揺が小さいうちにブリージングをして回復させるのがシステマの鉄則です。心が揺らぐときには、呼吸が浅くなったり、体が硬くなったり、必ず身体的な変化が生じるもの。こうした兆候を少しでも感じ取ったなら、すぐにブリージングをしてください。

ことあるごとにブリージングをしていれば、動揺することは少なくなり、『カーム』な状態を実感できると思います」(北川氏)

システマにストレス耐性の向上を見出す人が多いのは、この「キープ・カーム」の教えがあるからだ。あらゆるストレスに対処できるメンタルマネジメントの手法として、混迷する時代に役立ってくれることだろう。
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text by Jun Takayanagi(パラサポWEB)

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