日比野克彦x箭内道彦「社会課題にぶつかったとき、アートは世の中を変えていく」

日比野克彦氏(左)と箭内道彦氏(右)


ちなみに今年の夏、東京藝術大学の大学美術館で「SDGs × ARTs」という展覧会をやります。アートを支援することによって、SDGsの目標が達成できるような挑戦をするものです。今年の1月は東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクトにて公募を行いました。これはコロナ以前から始まったアートプロジェクトで、若手芸術家支援の一環のプログラムでもあります。

「芸術は人を愛する」という信念──芸術がなければ人間は成立しない、社会の中での芸術の必要性をちゃんと発信していこうというプロジェクトで、今回は藝大の学生、卒業生、研究室、先生を含め、自分の活動・表現がSDGsと接続する前提で応募してもらいました。

その中で採択された作品が60点くらいあります。さらにその中から20点ほどを選んで展覧会をやる予定なんです。審査にはSDGsの専門家でもある慶應義塾大学の蟹江憲史先生や、藝大の理事であり日本におけるSDGsの旗振り役をされている国谷裕子さんにも入っていただいています。企業や経済、社会がどうやってアートと接続すればいいのか、そのヒントになるような展覧会にできるよう、これから頑張ります(笑)。

東京藝大アートフェスで、若手芸術家に勇気と刺激を渡したい


箭内:展覧会や演奏会に関しては、現在アーティストたちがコロナ禍によって、活動の制約を受けているという現状があります。そこで2020年夏頃から、東京藝術大学が学生たちの活動を支援するためのクラウドファンディングを始めました。その結果、ありがたいことにかなりの資金が集まり、その資金の使途の1つとして東京藝大アートフェスを立ち上げました。

対象は東京藝大の在校生と、40歳以下の卒業生。もちろん世界中の若手芸術家を救いたい気持ちはありますが、まずは藝大の在校生と卒業生から始めた形です。経済的にも発表の場が奪われるという意味でも、本当に苦しんでいる声がたくさん届いており、何か新しい支援の形が作れないかと学長をはじめ検討してきました。

アートフェスはオンライン上で彼らの発表の場を作り、活動を支援するのが目的です。5月17日までオンライン上で開催し、さらに彼らの活動の場を広げるためのPRイベントを5月2日に実施しました。他にも若手芸術家支援基金という取り組みも進めています。

若手芸術家への支援を中心に動きつつ、やはり僕らが気になるのは、コロナ禍においてアートはどのような役割を持っていて、どうあるべきなのかということです。海外だとドイツのモニカ・グリュッタース文化相が「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と断言しましたし、イギリスのボリス・ジョンソン首相は「劇場や美術館は我が国にとって心臓の鼓動のような存在である」とコメントしています。

では日本はどうなのか。若手芸術家の方々もみんな不安を感じていると思うんです。そんな中で、この東京藝大アートフェスが少しでも役に立てば──そんな思いで企画しました。

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──オンラインで開催することで、日本各地や世界中の人にも見てもらえるようになったわけですが、もともとアートフェスのターゲットはどのように想定していたのですか?

箭内:美術館に行くのは大人が中心で、そこは外したくないんですが、それ以上に若手芸術家が見てくれる、若手芸術家のためのフェスでありたいと考えました。若手芸術家たちに勇気と刺激を渡したいとも思っていて、結果として芸術家だけでなく若い人たちが、「アートってこんなに面白いんだ」と初めて体験してくれる場にできたと感じています。

東京藝術大学には美術・音楽の2学部と、美術・音楽・映像・国際芸術創造という4つの研究科(大学院)がありますが、それが全て1つのページに収まっていることが、とても面白いと思いました。美術だけの展覧会でもなく、音楽だけの演奏会でもなく、ちゃんと多様を表現している、そんな場になっているように思います。
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文=筒井智子 編集・インタビュー=谷本有香

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