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日比野克彦氏(左)と箭内道彦氏(右)

コロナ禍において、アートを取り巻く環境は大きく変化した。多くの美術館やコンサート会場が閉鎖され、予定されていた展覧会や音楽会は延期や中止を余儀なくされ、アーティストは活動の場を失っている。そのような状況下で、東京藝術大学は同大学在学生および卒業生の新たな作品発表の場として「東京藝大アートフェス2021」をオンライン上で開催した。

人々の生活が大きく変わり価値観が多様化する中で、アートはどのような役割を担うのか。アートを経営やビジネスに活かすには、何から始めれば良いのか。東京藝術大学美術学部長の日比野克彦氏と、同大学美術学部デザイン科教授の箭内道彦氏に伺った。

日本独自のアートと経営や社会との接点を生み出す


──昨今のアートブームについて、お2人はどのように捉えていらっしゃいますか?

箭内道彦氏(以下、箭内):アートは一過性のものではありません。その大前提があって、たまたまビジネスにも使えるなという感覚です。アートとビジネスのマリアージュではあるけれど、そこだけに留まるべきではないと思っています。

一方、いろいろな分野でこれまでのロジックが通じず壁にぶつかっている今、その壁を飛び越えていくためには従来の発想では不可能なことがたくさんあります。その答えをつくることができるのは、たぶんアートしかないのではと考えています。

だからこそ、アートとビジネスをどうつないでいくか?という発想になるんですが、表層の部分だけではアートが不本意な形で扱われかねません。経営者や起業家、ビジネスパーソンの方々には、アート的に物事を考えることをちゃんと楽しんでほしいなと思いますね。

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箭内道彦氏

日比野克彦氏(以下、日比野):ビジネス界の方々がいう「アート」は、少し旧態依然な考え方なのではと思っています。美術館に行くとアートがある、藝大に入るのは難しい──そんな類の「アート」では、ビジネス界において何の足しにもならないと思うんですね。

たとえば会社の企画会議で「みんなでアート的な発想をしましょう」と言ったところで、そんな発想は出てこないですよね。じゃあ美術館に行ってみよう、ブレインストーミングしてみようとなるかもしれませんが、結果はたいして変わらないでしょう。

僕たちアート界の人間が「アートってこういうものですよ」と言った上で広げていかないと、ボタンの掛け違いになってしまうと思うんですよ。だから藝大ではまさに今、ビジネス界がアートを参考にしようとしたときに「アートってこういうものなのか」と思えるよう、ダイナミックに変換していく必要があると考えています。藝大だけでなく、美術に携わる人間たちが、実践していかなければと思うんです。

──資産としてアートを所有する、今後値上がりするかという目線でしかアートを見ていない人も少なくないように思います。アーティスト側の表現と、購入する人・目利きする人たちの必然性が合致していない状態なのではと感じますが、それを一致させていくにはどのようなコミュニケーションが必要だと思いますか。

日比野:オークションを含め、欧米的なアートマーケットは日本になかなか根付かないと思っています。アートを資産と考えるのはコレクター的な考えですよね。本来のアート支援は、作家を支援するパトロネージュです。アートは時代を作る。つまり作家を支援することで、自分たちが次の時代を作ることができます。

でも今おっしゃったような資産的価値としてアートを考えると、例えばゴッホやピカソの作品にいかに高値が付いても、もうそれは過去の話なわけです。作品という「物」しか残っていない。ゴッホやピカソがこれから時代を作るわけではありませんよね。そういう意味でも、コレクターとパトロンは全く異なるものなんです。

欧米の場合、アートマーケットにパトロンとコレクターの両方が存在します。でも日本はほぼコレクターしかいないから、どうしてもアートマーケットが根付いていないように見えるんですよ。

じゃあ日本にはパトロネージュがないのかというと、全く違います。欧米のようなパトローネージュはなかなか馴染まないけど、地域アート的なところにかなりパトロネージュは存在します。アーティスト・イン・レジデンスは日本にもたくさんあって、アーティストを支援しているんです。例えば新潟で開催されている大地の芸術祭をはじめ、各地で行われている地域芸術祭がありますし、都市部でも横浜トリエンナーレや、あいちトリエンナーレなどがあります。

アーティストがその街に行き、現地の人たちと関係性を持つことで、街自体が元気になり、回り回って経済効果が生まれる。これは物としてのアートマーケットとは別のマーケットです。アートマーケット業界も欧米的なスタイルは根付かないかもしれないけれど、日本独自のものを生み出す可能性は十分にあると考えています。

文=筒井智子 編集・インタビュー=谷本有香

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