カフェテリアの食事提供やフィットネスジムの整備など、従業員の心身の健康を支える施策はウェルネス部が担当する。楽天主義の共有のための施策実施やダイバーシティの推進を通じて、従業員と組織の心理的なつながりを強化するのはエンプロイー・エンゲージメント部が手がける。社会のウェルビーイングは、ESG関連情報の発信などを手がけるサステナビリティ部が担う。
「個人のウェルビーイングなくして、組織のウェルビーイングなし。組織のウェルビーイングなくして社会のウェルビーイング なし、です」
「ドゥーイング一辺倒」への危機感
20年春からは取り組みを一気に加速させた。背景には、コロナ禍によって従業員とのコミュニケーションに分断が起こり、企業文化が薄れてしまいかねないとの危機感があった。
「Zoom会議によって会議を効率的に集約できるようになり、生産性は上がりました。当社も、20年度の正社員1人あたりの営業利益は対前年40%、総コストに対する営業利益は47%増加しています。でも、この数字を見たときに『中長期的にまずいのではないか』と思ったのです。ドゥーイング(Doing)とビーイング(Being)のバランスが大事だ、と」
ここでいうドゥーイングには、会議を含む仕事や思考することが該当する。一方、ビーイングには雑談やプライベート、「感じる」ことなどが含まれる。リモートワークの広がりによって、組織はともするとドゥーイング一辺倒になりかねない。そこで楽天グループは両者のバランスを取るべくさまざまな手だてを講じてきた。
企業文化の薄れに対しては、トップダウンで週1回、従業員が楽天グループ会長兼社長・三木谷浩史とともに、同氏の経営哲学をまとめた書籍『BUSINESS-DO』について対話する機会を設けた。書籍の内容に最新のビジネスやテクノロジー動向を関連付けながら10分程度、社長自ら従業員に語りかける。元はコロナ直後の新卒社員向けの取り組みだったが、20年秋からは国内の全従業員2万人以上をZoom上でつないでセッションを行っている。その内容は録画し、時差で参加できない海外の従業員にも共有している。
この施策が従業員と組織のウェルビーイングにつながる理由を、小林はこう説明する。
「この会社にいて大丈夫だろうか。いつまでこの状態が続くのだろうか。そんな不安を抱えがちなときこそ、経営には戦略や情報をきちんと共有することが求められます。もちろん社長だけでなく、各部署のマネジャーが方針や意図を共有できることがとても重要です」
ボトムアップでも、ランチタイムに楽天主義をベースにした雑談ができる「カルチャーカフェ」をはじめ、オンラインでもでき るコミュニケーションの施策を次々に繰り出している。
「Huddle Empowerment」もCWO管轄下のウェルネスチームが進めている活動だ。同チームのメンバーがさまざまな部署のオンラインミーティング(Huddle)に顔を出し、数分でできる運動やストレッチをナビゲートする。また、20年春の緊急事態宣言下には、役員間で始業前にオンライン・ラジオ体操も始めた。その後も、従業員はもちろん、国内外問わず社員の家族も自由に参加する一大イベントにもなっている。
ウェルビーイングへの取り組みは、社内だけにとどまらない。