ビジネス

2021.04.30 08:30

楽天が目指すグローバルな企業文化 個人と組織と社会に「ウェルビーイング」を


小林が管轄する組織の一つに、18年に設立された「楽天ピープル&カルチャー研究所」がある。20年7月には同研究所から「コレクティブ・ウェルビーイング(チームでのウェルビーイング)」というガイドラインを公開した。持続的なチームのあり方を検討するうえでは仲間、時間、空間という3つの間(さんま)を設計するとともに、それぞれに雑談や休息などの「余白」を設けることが大切だと提唱している。

さらに、誰もがガイドラインに沿って行動を取りやすくなるよう、独自に開発した無料ツールをオンライン上で公開。企業には組織のあり方を見直すのに役立つチェックリストを示し、個人には「さんまサイコロ」など雑談のきっかけや個人のビーイングの振り返りに使えるツールを提供している。

「企業も個人も答えを探している。それなら現場で使えるアイデアをご提供して、みんなでいまの時代のウェルビーイングを考 えられたらと。一社だけがウェルビーイングって言っていても、ウェルビーイングな社会にはならないので」

これこそまさに、コレクティブ・ウェルビーイングの考え方の表れと言えよう。

ブームに乗じるだけではいけない


小林の元には最近、複数の企業から「ウェルビーイングを担当することになったので、話を聞かせてほしい」といった連絡が来るという。「ウェルビーイングの流れが来ていると感じる」と笑顔を見せる一方で、小林は「正直、『大丈夫かな?』と不安に なることもある」と指摘する。

「社員が自分らしく生きることはもちろん重要です。しかし同時に、ハードシングスが人を育てるという側面もあります。社員のウェルビーイングを掲げるときには、経営側が事業の目的を明確に伝えていく必要があると思います」

企業の存在意義や本来的な目標を共有しないまま社員にとって聞こえのいい施策を講じれば、社員は一時的には喜ぶかもしれない。しかし、中長期的な幸せや組織の持続性につながるかどうかは疑問が残る。小林の言葉は、世の中のブームに乗じるだけではコレクティブ・ウェルビーイングには到達できないことを示している。

だからこそ、組織と人とのよりよい関係性を考えたとき、そこにはこまめなコミュニケーションが求められる。小林はCWOとして日々、従業員との雑談を大切にしているという。何気ない会話を通じて従業員と価値観を共有し合い、個人として、組織として、社会としてのありようを説く。

そんな小林は最近、自宅で子どもたちに「パパは会社で何をやっているの?」と聞かれるという。そのたびに、小林は「雑談だよ」と答えるという。

「『雑談って、しゃべっているだけ? それで仕事なの?』と子どもに聞かれます。だから言うんです。『うん、そうだよ。仕事って楽しいものなんだよ』と」

こばやし・まさただ◎楽天グループチーフウェルビーイングオフィサー(CWO)、常務執行役員。1997年の楽天創業から参画し、2012年から米国本社社長、14年からアジア本社社長を経て17年秋にチーフピープルオフィサー(CPO)に就任。2019年から現職。


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文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.082 2021年6月号(2021/4/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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