MCX終了の1年前に、規制を破って開発をスタートしたWalmartとKohls、そしてMCXに参加しなかったStarbucksなどは、早いスタートを切ってデジタル化を進め、モバイルアプリの開発や店頭オペレーションとの連動を充実させはじめていた。この3社の動きは、MCX加盟企業を焦らせる要因となり、また、先行事例として参考にされ、各社一気にシステム開発に没頭したと思われる。
2016年6月、MCXの終了とほぼ同時期に、クレジットカードのICチップ化とその店頭オペレーションは流通業界各社で完了した。日本では大きな課題になっていなかったが、米国ではこのICチップ化を巡り、大規模な不正利用、システムの問題などもおこり、流通大手を悩ませていた。そのため店頭決済のシステム変更等の開発が急務であり、各社とも新規のデジタル開発やモバイル決済などを進める余裕がなかった。MCXの終了とICチップカードの受け入れの完了という、2つの「店頭でのデジタル化の障害」になっていた問題が片付いて、大手流通のデジタル開発は一気に加速された。
そして2つ目。大手流通の急速な変化のもう一つのドライバー(要因)である、Amazonの脅威だ。AmazonはMCXに加盟していなかったため、ライバルの大手流通に開発制限がかかっている間に、一気に自社のデジタル技術を進めることができたのは大きかった。流通系のコンベンションにいくと、「VS Amazon」という言葉が、より頻繁に聞かれるようになった。2015年くらいから、「Walmartは2030年頃にAmazonに買収されるのでは?」という冗談が出るくらい、Amazonの脅威は年々強くなっていた。
一斉に自社のデジタル開発を始めた流通大手各社だが、そこには「VS Amazon」という共通の意識があった。勢力を増し、年々売上を伸ばしていたAmazonと戦い、奪われ始めた売上を取り戻すためには、各社のデジタル化が必須だった。そして、この2016年からの流通大手の開発で、何より優先されたのは「スピード」だ。大手が一斉に開発をスタートしている以上、自社が遅れるというのは死活問題となる。成功しそうな、大手のデジタル化のための仕組みが市場に導入されると、その仕組みを取り入れてスピードをあげている事例がみられた。
一斉スタート、スピード重視。しかし消費者が使いたいと思う、「便利さ」か「お得さ」を提供しなければ、消費者の行動変革は望めない。
「VS Amazon」かつ、ほぼ同時にデジタル化が進んだ競合の大手流通各社と戦いながら進められたデジタル化が、消費者にも受け入れられながら、急スピードで進んだ成功のキーは4つある。
1. リアル店舗を活かしたOMO(Amazonと同じ戦い方をしない)
2. 総合的なビジネス設計の必要性 (ビジネスを設計してから、開発する、テストする)
3. 組み合わせてサービスを開発 (APIでSaaS等を繋ぐ、パートナーシップを活用する)
4. デジタル化で新収益源を作る (デジタル開発で、新しい収益源になる領域に参入)
これは、今後日本国内でDXを急速に進めたいと思う企業の方々の参考になると考える。この4つの詳しい解説や事例は、次回の記事で、改めて説明していきたい。
連載:米国の破壊的イノベーション、その最前線
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