あの時とは? そしてなぜ米国の流通大手が一気に変わることができたのか。日本企業がスピード感をもってデジタル化を進めたいと考えるとき、米国の流通各社が生き残りをかけて変化した状況とその戦略と戦術から、自社の戦い方を学べるだろう。
「流通大手のデジタル化」といっても、(1)デジタルの仕組みや技術を導入する (2)流通を利用する顧客がそれを使うようになる、という2つの変化が必要だ。ここでは、「(1)流通大手がデジタルの仕組みや技術を導入する」という変化に関して、なぜ「急激に」変化しなければならなかったのかという外的要因と、急スピードで変化を成功させた4つのキーについて説明する。尚、4つのキーの詳細に関しては、次回の記事でより掘り下げて書きたいと思う。
なぜ、米国の流通大手が、急激にデジタル化を進めることになったのか。この激変は、米国で新型コロナウィルスが深刻な問題になる直前、2020年1月にNYで行われた世界最大級のリテールコンベンション、NRF(National Retail Foundation)Big Showでも一番の話題になっていた。流通においては2016年後半から2019年後半の3年間で「2、30年のDXが3年で起こった」ともいわれていて、デジタルの技術と「仕組みの導入」が進んだのがこの時期である。顧客がそれを「使うようになる」のは、デジタル化がコロナに後押しをされてからの出来事だ。
2016年後半からの急激な変化は流通大手で“一斉に”起きた。大きな理由は2つある。
1つ目は店頭デジタル化の障害になっていた問題が片付いて、デジタル化の開発を始める環境が各社で整ったこと。2つ目はAmazonの脅威が急激に大きくなったためだ。
1つ目の障害となっていた問題とは、米国で流通大手のデジタル化の基盤となるMCX(Mobile Customer Exchange:モバイル決済の共通プラットフォーム)とカードのICチップ化である。日本ではあまりに話題になっていなかったが、米国では、MCXという巨大JVにより流通大手の自社での技術開発に大きな制限がかかっていた。MCXという巨大なプロジェクトが存在し、そのMCXに流通の大手どころのほとんどが参加する形になっていた。Walmart、7-eleven、BestBuy, Target, Walgreenなど流通中心の62社が参加、その総売上規模は100兆円を超えていた。CurrentCというモバイルアプリ決済を中心に据え、データの管理やマーケティングとの連動など、多岐に影響を与えるプログラムだったようだ。
このMCXとの共同開発と自社開発への制限は、2012年8月から 2016年6月末に終了するまで続いた。結果として、加盟企業はこの開発制限のために、2016年までデジタル化に遅れをとっていたが、解散により、米国の流通業界が一斉に同じタイミングでデジタル開発を加速することになったのだ。