それは「厳しくすれば頑張る(=より多くの行動を取る)」という「信仰」だ。実際には「厳しさ、罰、不安」を与えることによる効果は、行動を減らす機能を持つ。
もちろん、短期的には「次回は怒られたくないので、努力しよう」ということはあり得る。
しかし、例えば、あなたがいちメンバーで、小さなミスをしてしまったとしよう。そして「他の人も同じようなミスをするかもしれないし、チームのためにも一応ミスを報告しておこう」と考えたとしよう。だがその時、一週間前にミスを報告した際に厳しく叱責された記憶が頭をよぎる。結局、上司からすれば必要なはずの、そしてチームの改善と学習につながったかもしれない「報告する」という行動が減ってしまう、こうした現象を生むのが、この厳しいアプローチなのだ。
厳しいアプローチにより起こる結果
実際、厳しい上司や先輩に対して「怒られるかもしれないから、相談しないでおこう」と思ったことが、人生で一度もない人は珍しいだろう。それにも関わらず、私たちは役に立つと信じて「厳しくすることで、人を努力させよう」としてしまう。
メンバーに「もっと努力して欲しい」とき「厳しくする戦略」は捨てた方がいいだろう。
メンバーの行動を活性化する指針は3つ。1つ目は、人類の99%は「褒められて伸びる(行動が増える)タイプ」だと思った方が上手くいくということ。2つ目は、きっかけやサポートを与えること。そして3つ目は、適材適所に配置をすることだ。
心理的柔軟なリーダーシップが心理的安全な組織・チームをつくる
一見当たり前だが、重要なことは、組織やチームは「他者がいて初めて成立する」ということだ。だから、ここで書いたことは、あくまで「参考情報」にすることが重要だ。つまり、筆者が主張するノウハウやアクションを実施するにあたって、ノウハウ自体よりも「相手の反応をよく見る」ことを重視してほしい。
心理的安全性の導入・実装もそうだが、組織開発や人材開発という「他者がいることが前提」のノウハウが実行時に失敗するのは、この「相手の反応をよく見る」ことの不足に起因する。ノウハウより、「目の前のメンバーの反応」という現実に、よく接触してもらいたい。
チームメンバーや現実がくれるフィードバックを受けて、しなやかに軌道修正すること。そのような心理的柔軟なリーダーシップを身につけることを通じて、あなたの組織・あなたのチームならではの心理的安全性が構築できるだろう。
石井遼介(いしいりょうすけ)◎ZENTech取締役。一般社団法人日本認知科学研究所理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。東京大学工学部卒、シンガポール国立大経営学修士(MBA)。2017年より日本オリンピック委員会より委嘱され、オリンピック医・科学スタッフも務める。2020年に上梓した著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)は現在15刷7.5万部を記録し、読者が選ぶビジネス書グランプリ「マネジメント部門賞」を受賞。「HRアワード2021 書籍部門」入賞。