ヨーロッパで何が起きているのだろうか。またアストラゼネカ製を含むワクチンを調達する日本に求められる視点とは──。国際安全保障に詳しい東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授に聞いた。
ワクチンの公正な分配 世界の理想と現実
──WHOなどが、新型コロナウイルスのワクチンを共同調達する国際的な枠組み「COVAX」を提唱していますが、多国間の協調の現状についてどう見ていますか。
COVAXは今までにない新しい取り組みで、その理想の実現に向けて道半ばですが、想定よりはうまくいっていると思います。
これまでのWHOの感染症対策は、途上国で発生したウイルスを先進国まで広がらないようにするものでしたが、コロナ禍では、途上国よりもアメリカやヨーロッパなど先進国側の方が感染者と死者を出しており、全く違うアプローチが必要です。先進国によるワクチンの独占を防ぎ、すでにナイジェリアやケニアなどにもワクチンが配られています。
将来的にはアメリカやイギリス、インド製ワクチンもCOVAXへ回すことができれば良いと思います。そうした分配が可能になるまでに、1年もかからないと見込んでいます。
──EUではワクチン接種に向けて足並みを揃えたい狙いですが、現状はどうでしょうか。
EU全体で公正な分配を作れるように、EUが一括して加盟国27カ国分のワクチンを契約して期待されていたのが、全て裏目に出ている状況です。
まずイギリスのアストラゼネカのワクチン4000万回分が遅らせると言われ、契約に不備があるとわかりました。その契約には3段階あり、最初の大枠の合意、次のコミットメントで止まってしまい、3段階目の具体的な回数についての契約ができておらず、後回しにされたのです。これがEUのワクチン計画のつまずきの始まり。契約に対する経験不足で加盟国がパニックに陥りました。ちなみに、日本の厚労省も同じミスをしていました。
3月25日、各国の首脳が参加するEUリーダーズサミットにバイデン米大統領も出席した(Getty Images)
そこに変異株が流行し、感染者数が増大したのが追い討ちをかけました。ドイツやフランスがロックダウンし、イタリアも一部制限されました。すると、3月頭にはイタリアが、国内で製造しているアストラゼネカのワクチンのオーストラリア向けの輸出を差し止め、EUから評価されました。
EUは1月末にワクチン輸出規制を導入しており、実際の差し止めが明らかになるのは初めて。「恐れずにやった。先例を作ってくれてありがとう」ということでしょう。輸出分のワクチンを奪ってでも欲しい状況ということですね。
イギリスはEUを脱退しているため、アストラゼネカと自由に契約できます。変異株への恐怖感も相まって、行き場のない怒りがイギリスに向かっています。