健康保険組合や自治体への診療報酬の請求に使われるのだが、一方で、国民1人1人にどのような医療が行われたのかを記録した「ビッグデータ」としての側面も持っている。しかも電子化されているため、分析も簡単だ。
同じようなレセプトは介護保険でも使われている。ところが、同一人物の医療と介護のレセプト同士を照らし合わせることや、それをもとに個人や地域の健康分析に使おうという動きは、どの自治体でもこれまでほとんど見られなかった。
そんななか、神戸市では昨年11月から、医療と介護、双方のレセプトデータを再利用して、外部の研究者が分析できる仕組みをスタートさせた。
医療レセプト(イメージ)
目的は、エビデンスに基づく政策の立案
この取り組みを提案したのは、循環器・救急・集中治療の専門医でありながら、神戸市健康局担当課長も務める三木竜介だ。任期付の外部人材として3年前に登用された。
三木は、市にレセプトが届く国民健康保険と介護保険、さらに後期高齢者医療のレセプト、予防接種の接種状況、がん検診などの検診データ、住民基本台帳に記録される転入・転出・死亡日などの情報を個人ごとに結びつけようと考えた。
これまでの医療データを使った分析といえば、急性期病院での医療が対象であった。しかし、昨今、病気になる前の予防医療こそが大切だといわれるようになり、厚生労働省では医療と介護のレセプトの国レベルでデータベースをつくろうとしている。だが、自治体では、予防接種や健診データ、さらに死亡日といった情報も管理しているので、地域や個人の健康分析をするには、それらを含めてデータを結合すべきと考えたのだ。
ところが、いざ始めてみると、簡単にはできない。これらのデータは独立した別々のシステムで処理されていて、担当部局もバラバラだった。しかも、レセプトは、請求以外の目的で使うことが個人情報保護条例の規定で禁じられているのだ。
そこで三木は、個人情報保護審査会で、市民の健康増進に役立てることができると説明して、条例上の特例として認めてもらった。さらに複数の担当部局にメリットを丁寧に説明して、協力を取り付けることに成功した。
その道のりはこうだ。まずは、各システムから取り出したデータを個人ごとに一本化。次に、誰のデータであるのかを隠すために、氏名、生年月日、住所などを削除する。こうして、匿名化された約60万人分のデータセットができあがった。これは、数でみると神戸市民150万人の4割に相当する。
ヘルスケアデータ連携基盤
三木はこれを「特定の地域に住む人たちの過去から現在までの健康状況を客観的に示したデータであり、研究者にとってはノドから手が出るほどほしい研究材料だ」と説明する。