「神戸のつどい」と呼ばれるこの会は、東京で活躍している神戸出身者や神戸で働いたことがある方に、神戸の街への関心を持ち続けてもらおうと、神戸市と神戸商工会議所が開催しているものだ。
この会に参加した民間企業トップと神戸市長などとの話がきっかけになって、オフィスや製造拠点などが地元に開設された事例もあり、企業誘致や経済活性化にとって重要なイベントとなっている。
例年会場では、灘の酒での鏡開きにはじまって、参加者はグラスを片手に、いま進められているプロジェクトを紹介する展示ブースを巡るのが通例だ。
しかし、コロナ禍のいま、リアルで開催するのは難しい。ならば、オンラインの仮想空間でやるしかないのではと、神戸市職員である石川貴美子と野田訓子が企画を立ち上げた。こうして職員たちの奮闘が始まった。
オンライン版「神戸のつどい」の立役者である神戸市職員の石川貴美子(写真右)と野田訓子(左)
オンライン開催のため新技術「XR CLOUD」を導入
石川と野田が、私のところに相談に来たのは、昨年7月のことだ。まずは、一般的なオンラインイベントのツールが使えないか検討した。例年なら会場には、神戸市長に挨拶をしようという50人近い参加者の列が生まれる。これをオンラインでやろうとすると、既存のツールでは難しかった。面談の予約はできるものの、それが1分で済む挨拶なのか、5分以上話し込んでしまうのかが事前には判らないからだ。
少しでも多くの参加者が市長と会話できるようにするには、新たな手法が必要だった。それを模索するなかで、彼女たちはmonoAI technology(モノアイテクノロジー)という会社が提供する、仮想空間でイベントを行う新技術「XR CLOUD」を見つけ出した。
同社は、本城嘉太郎氏が起こしたベンチャー企業で、2018年に神戸に本社を移転してから、私自身が本城氏と親しくしていた。そんな経緯もあり、彼女たちがさっそく本城氏に相談したところ、意気投合。オンライン開催での「神戸のつどい」を、XR CLOUDのデビュー戦にすることとなった。
XR CLOUDを使えば、参加者は仮想空間でアバター(分身)になることができる。もちろん、アバター同士は、音声通話とテキストチャット、さらに名刺交換や写真撮影までできるのだ。
参加者のアバター同士はボイスチャットで会話をすることができる
オンライン上につくったメイン会場には、神戸医療産業都市、スタートアップ支援といった最新のプロジェクトに関する展示ブースを20カ所並べることにした。参加者が好きなブースを訪問すると、事業を紹介する動画やポスターが閲覧できたり、スタッフアバターから説明が聞けたりする。
懸案だった市長面談のオンラインブースには、受付コーナー、待合室、面談室をつくった。受付を済ませ、指定された時間に待合室に行くと、前の人が終わり次第、面談室に入れるようにした。長蛇の列に並ぶことなく、効率的に面談できる仕組みだ。
企画者である石川と野田の2人はこれで十分と思っていたのだが、ある上司が「オンラインの開催なら、いつもより内容を充実させないと参加者が減るのでは」と指摘した。例年の参加者は50歳代以上が半数を超える。オンラインに慣れない人が多いと考えれば、確かに参加者は減りそうなので、たしかに例年にまさる魅力が必要だ。
そこで、川崎重工による自動PCR検査ロボットや、スパコン「富岳」のコロナ研究といった最新の話題を紹介するセミナーも開催することにした。参加者は、セミナーの合間にブースにも訪問できるように、メイン会場の中央に床が黒いエリアをつくり、そこにアバターが立つと、スライドが見え、講師の声が聞こえてくるというセミナースペースにした。
メイン会場ではセミナープログラムもVRで確認できる