そんななか、病室にいる新型コロナ患者の映像や声を、高性能カメラなどを使って、医師や看護師らが詰めるスタッフステーションから、つぶさに把握できるシステムが注目されている。
昨年11月、神戸市立医療センター中央市民病院の36床からなるコロナ専用病棟に、初めてこのシステムが導入された。開発したのは、集中治療の専門医である中西智之が創業し、代表を務めるスタートアップ企業「T-ICU」だ。
ベッド上の患者をモニター越しに見守る
私が中西に初めて会ったのは2017年。米国シリコンバレーの投資ファンド「500 Startups」が、神戸市とともに開催する起業家育成プログラムにT-ICUが選ばれたのだ。米国のファンドまでもが関心を示した、現役医師が始めたビジネスがどう成長するのか、私自身も気になり、フォローし続けている。
コロナ禍で注目を浴びるT-ICU代表の中西に話を聞いた。
──なぜ「遠隔」での医療を企業化しようと思い立ったのでしょうか?
東京の大規模病院に勤務して、集中治療専門医となった後、地方の中堅病院に救急部長として赴任しました。その地域には、周辺の病院を含めても、自分くらいしか専門医がいなかったので、自分の病院が満床のときには患者を受け入れることができなくなってしまうのです。
そんなときに、「遠隔」で患者を診ることができればと思ったことが、最初のきっかけでした。近くの病院に患者を受け入れてもらい、自分が遠隔で助言することができれば、救急でのたらいまわしがなくなるのではないかと思いました。
時を同じくして、米国で専門医が各地の病院に「遠隔」で助言していることを知りました。患者の映像や情報をインターネット経由でやり取りしていることがわかり、このシステムを日本に導入しようと、4年前に会社を起こすことにしました。
会社で集中治療の専門医を抱えて、全国各地の病院のICU患者の映像やバイタルデータを遠隔で共有して、治療に際して助言できるようにしたのです。
──もともと集中治療の専門医だったのでしょうか?
私は大学を卒業後、大学病院や地方の中堅病院で心臓外科医として勤務し、集中治療室(ICU)にも詰めていました。ICUに入る患者はほぼ3パターンです。大きな手術の後に入る、救急で運び込まれる、そして一般病棟で病状が急変した場合です。この病院では、ICUに入るのは手術後の患者が8割以上を占めていました。
ところが、その後、東京の大規模病院の救急救命センターに着任すると、そこではこれまでと逆で、ICUに入ってくるのは救急患者が大多数で、それを集中治療と救急の専門医が診ていました。最初は自分も専門医らがあまりにも的確な処置をするのに驚かされましたが、自分も2年間そこで勤務し、集中治療専門医として認定されました。