また、選抜挑戦後のキャリアを思い描ける環境を整えることも求められる。例えば受験者が所属する団体と連携することで、受験者の能力を活用し、団体として新たな展望が描けるようになるかもしれない。
前回の宇宙飛行士選抜ファイナリストの内山崇は、自身の経験からこう語った。
「前回のファイナリストたちと、せっかくファイナルまで残ったのにその後なにもないのはもったいないよね。選抜を経るなかで培ったスキルやマインドをなにか有用に使えないのだろうかという話がでました。受験者もJAXAも、受験者が所属する所もウィンウィンになるようなキャリアシステムがあったらいいなと思います」
それに対して佐渡島は、「副業や兼業ができるいまの時代はオンラインなどでゆるく繋がることができます。宇宙兄弟でも選抜に落ちた人が民間のロケット企業に行って、六太(「宇宙兄弟」の主人公)たちを助けるシーンが感動的に描かれていて、そういうことが起こればいいな」と語った。
さらに、リクルートワークス研究所主任研究員の中村天江は、近年企業で行われている学習システムを、宇宙飛行士選抜の過程にも応用することができるのではないかと話す。
「ここ数年普段の職場や人間関係の外にも学びがあるとして、企業が越境学習を推進する動きが見られます。宇宙に関わる職につきたい人はたくさんいると思いますが、そういう人たちにとっては選抜を受ける期間そのものが最高の越境学習になると思うので、そういうシステムがあることを企業に伝えられたらいいと思います」
漠然とした夢が目標に。何度でも諦めない人を待っている
今回の見直しでは、今後5年に1度宇宙飛行士選抜を行うことも検討されるという。いまから私たちが準備できることはあるだろうか。
NASAの地球外物質探査科学部門に在籍する中村圭子はこう語った。
「NASAでは希望者は誰でも、なぜ落ちたのかのフィードバックをもらえます。さらにNASAは繰り返し応募している人を把握していて、諦めない人、積極的にトライする人を選んでいると聞いています。JAXAも5年に1度選考をするようになった場合、諦めずに5年ごとに帰ってくる人をトラックできるようになればいいなと思います」
また、若田は特に子どもたちに向けてこう話した。
「多様性こそがイノベーションを生みます。自分が心地良いところに留まっているのではなく、自分の殻を破って外に出て、知らない領域の人と話してみることを常に心がけてもらいたいです。それが技術革新にもチームの向上にも繋がります。
宇宙飛行士の素質の根幹になるのは、チームプレイや冷静な判断、苦境を乗り越えるためにユーモアを忘れずに考えること。でもこれは宇宙飛行士だけじゃなくて普段の生活やどんな仕事でも必要なことですよね。宇宙飛行士はそれを常に行うことを訓練されていますが、それを共有できる能力もこれからは必要です」
前回選抜を受けた立場から、内山は今回の見直しへの熱い思いを語った。
「次の宇宙飛行士選抜は、いろいろことが大きく変わろうとしています。5年間隔で継続的に選抜することは受験者の立場からすると夢のようなことで、これまでいつやるかわからない漠然とした夢だったものが、人生設計上に計画して目指せる、目標に変わったと思うんです。みなさまからも選抜プロセスや育成プログラムについて広くご意見を頂けたらと思っています」
JAXAではこの新たな取り組みについて、検討案や選抜、基礎訓練に関する意見を3月19日まで募集している。
また、宇宙飛行士の募集・選抜、基礎訓練に活用できる民間事業者のノウハウやアイデアも情報提供を呼びかけている。
より柔軟に、より多様に。新しい宇宙時代の幕開けが近い。チャンスは広く開かれている。宇宙への一歩を踏み出すかは、あなた次第だ。