一つ確実なことは、LVMHは過去に買収したどの企業より多額の資金を投じて傘下に収めたティファニーを、自社のクラウン・ジュエル(重要な資産)にするつもりだということだ。
LVMHのウォッチ&ジュエリー部門は、ブルガリやタグ・ホイヤー、ウブロ、ショーメといった印象的なブランドからなる。だが、その売上高がLVMH全体に占める割合はごくわずかだ。2020年にはさらに低下し、7.5%(34億ユーロ、約4330億円)となっている。
一方、ティファニーの売上高は、2019年通期が約44億ドル(約4660億円)。2020年は第3四半期(年初~10月末まで)までで約23億ドルとなっている。LVMHの同部門の売上高は、ティファニーが加わるだけでおよそ2倍に膨らむことになる。
だが、この部門の売上高を2倍にすることは、LVMHにとっては「ほんの始まりにすぎない」という。ニューヨークに拠点を置くAHラグジュアリー・コンサルティングの創業者、アライン・フイは、次のように語る。
「ティファニーは世界最大のジュエリー・ブランドになるだろう。カルティエもヴァンクリーフ&アーペルも(どちらもLVMHと競合する仏リシュモンが所有)気掛かりなはずだ」
LVMHで10年働き、グラフダイヤモンドのバイスプレジデント、ケリング・ジュエリー北米部門のプレジデントも務めたフイはその経験と知識から、ベルナール・アルノー会長兼CEOの指揮下で事業を続けるティファニーの今後について、注目すべき点は次の5つだと指摘する。
・経営トップの一新
ティファニーには明らかな「LVMH化」のサインが見られる。買収完了に伴い、取締役会長にはルイ・ヴィトン会長兼CEOのマイケル・バーク、CEOにはルイ・ヴィトン幹部のアントニー・ルドリュが就任。アルノーの28歳の次男、アレクサンドルはプロダクト&コミュニケーション部門のバイスプレジデントに就いた。
リード・クラッコフに代わるチーフ・アーティスティック・オフィサーや、新たな最高ブランド責任者も迎えることになるかもしれない。
フイによれば、買収直後にこれほど大幅に経営幹部を入れ替えることは、LVMHの従来のやり方ではない。大抵は事業承継を円滑に進めるため、経営陣は時間をかけて交代させる。それが、仏企業らしい手法だという。
だが、ティファニーに対しては米国的なアプローチを取った。買収を巡って訴訟合戦にまで発展した今回は、「面目を保つために」必要なことだったと考えられるという。