さらに、アルノーは自社にとって過去最大の買収にかかる費用をおよそ4億ドル(約417億円)引き下げた。双方が当初合意していた買収額は、162億ドルだった。
今回の合意により、LVMHが今年9月に「買収を延期する」と発表して以来、両社の間で繰り広げられてきた論争は一段落し、互いを相手取って米デラウェア州で起こしていた訴訟も、決着が付くことになる。
アルノーは10月29日に発表した共同声明のなかで、新たな合意内容は「バランスの取れたもの」だと説明。「私たちはこれまでどおり、ティファニーのブランドが持つ圧倒的な潜在力に確信を持っている」「LVMHはティファニーとその従業員たちにとって理想のホームだ」などと述べている。
確かに、アルノーは買収額の引き下げに成功し、訴訟問題を解決したことを喜べるかもしれない。だが、成功したのはティファニーの側も同様だ。買収取引を成立させ、さらに自社の株主に1株当たり0.58ドルの配当を支払うことを認めさせた。
結局どちらが得をした?
買収を発表した昨年11月、アルノーはティファニーを「米国の象徴」と呼び、それが自らのリーダーシップの下、「少々フランス的に変わる」と発言していた。だが、今年3月に新型コロナウイルスのパンデミックが発生すると、高級ブランドを取り巻く事業環境は一変。ティファニーは世界各地で数多くの店舗を閉鎖する事態に追い込まれた。
LVMHとティファニーが主役となった“メロドラマ”は、米国で最も広くその名を知られる宝飾品大手と欧州一の富豪が、仏政府を巻き込んで展開されるものになるとみられた。デラウェア州の裁判所を舞台に、高額の費用をかけた激しい法廷闘争が繰り広げられると考えられていた。