サーキットブレーカーの役割
サーキットブレーカーは長年、理論先行型の仕組みとして位置付けられてきた。だが2020年に入り、これがほぼ予想されていた通りに機能することが実証された。ゆえに、我々が懸念すべきなのはおそらく、1日のあいだに起きる瞬間的な大暴落よりも、長期的に続く株価の下落のほうだろう。
株価が前日終値より7%、13%、20%下落した時に取引を停止させるサーキットブレーカーは、暴落を加速させかねない最悪な取引の不均衡を緩和する効果が、実際にあるようだ。サーキットブレーカーには、歴史上見られた「1日のあいだの激しい株価乱高下」が起きる可能性をゼロにする効果もある。
リターン低下の見通しが持つ意味
一方で、ある程度の注目を集めて当然なのは、今後数年はリターンが低下するという見通しだ。暴落が起きる確率は比較的低いとみられるし、その予測は非常に複雑なものになる(暴落の発生は、バリュエーションというよりは、取引の動向に基づいているためだ)。とはいえ、バリュエーションのレベルに基づいて、長期的な株式リターンをある程度適切に予測することはできる。そしてその結果は残念ながら、米国にとってはバラ色とは言い難いものだ。
簡単に言えば、長期的な利益成長の幅については、かなり予想がつく。米国株の利益の成長は、これまでの長期的な傾向を見ると、だいたい年率5~9%のあいだに収まる傾向がある。ではなぜ、株価はこれほどまでに上下動するのだろうか? それは、バリュエーションが変化しているからだ。
バリュエーション・マルチプル
長期的に見た場合の利益はほぼ安定しているが、こうした利益を狙って投資を行うバリュー投資家の利益は、安定とはほど遠い。1919年時点の投資家は、企業の利益1ドルあたり約5ドルを払っていた。現在の投資家は、企業の利益1ドルに対し40ドル弱を支払っている計算になる。
この値の米国における長期的な平均は、企業利益1ドルあたり15ドル前後だ。利益と対比した場合のバリュエーションにおける変動は、企業利益そのものの変動幅が小さく見えるほど激しいわけだ。
もちろん、今回はこれまでと事情が異なり、低いインフレ率やテクノロジーに牽引された成長といった要素から、バリュエーションが高くなる可能性はある。だが、これまでの事例を振り返ると、そうした見方は必ずしも当てはまらない。
投資家を立ち止まらせるのは、「間近に迫った、突然の大暴落のリスク」ではなく、バリュエーションが縮小するリスクかもしれない。実際にバリュエーションが、長期的に見た平均レベルや、さらにそれより低いレベルにまで落ちた場合、ある程度の期間、株式のリターンは冴えないものになる可能性がある。
バリュエーションの低落は、株価にとって深刻な逆風となるかもしれない。そしてこの傾向は、バリュエーションが最も高騰しているとみられる米国の市場で、特に顕著になるおそれもある。