暴落は多くの場合、売り注文が買い注文を大幅に上回る不均衡が引き金となって起きるテクニカルな事象だ。今の市場にはサーキットブレーカーが導入されており、これが過去に起きたような急激な暴落の発生を未然に防ぐ、あるいは下落が起きた場合も、少なくともその幅を抑える役割を果たしているようだ。
いま言えるのはせいぜい、現在の高いバリュエーションを踏まえると、今後得られるリターンが、数年にわたって比較的低くなる可能性があるということだけだ。これは、暴落が差し迫っているという主張とは、かなり趣が異なる将来予測だ。
非合理的な不安
株式市場の暴落は、飛行機の墜落事故やサメの襲撃と同様に、鮮やかに記憶に刻まれる恐ろしい出来事だ。そのため私たち人間は、統計学的に見たリスク以上に、こうした出来事を恐れがちな傾向がある。
これらの出来事は、私たちの意識の上では非常に大きな脅威として感じられるが、めったに起きるものではない。たとえば、株式市場が1日で20%以上も下落した1987年10月の「ブラックマンデー」からは、すでに30年以上の年月が経っている。
1987年のブラックマンデー
しかもこのブラックマンデーは、世間で言われるほどの大惨事ではなかった。仮にダウジョーンズ・インデックス投資を行っていたなら、1年間で見ると1987年の収支はごくわずかながらプラスになっていたはずだ。これは、暴落が起きた10月後半までの相場が上昇基調にあったことに起因するものだ。
さらに、株価がピークに達する直前に投資を行っていたとしても、約2年後には収支はプラスマイナスゼロにまで戻っていたはずだ。株価の乱高下は大きく報道されるものの、数年のスパンで見れば、長期保有の投資家は1987年のブラックマンデーにそれほどの影響を受けなかったというのが真相だ。
暴落を引き起こした不均衡
1987年の大暴落は、主に「ポートフォリオ・インシュアランス」によって引き起こされたというのが、おおむね現在の定説となっている。ポートフォリオ・インシュアランスとは、リスクを管理するために価値が下がった株を売却するプロセスだ。
これは、個々のトレーダーにとっては賢いやり方かもしれない。だが、市場が全体としてこのプロセスを採用するとボラリティリティが高まり、下落傾向にある株価をさらに引き下げる悪循環を引き起こす。実際、ブラックマンデーではまさにこのような現象が起きた。
この点は重要だ。なぜならこの事例から、現在の非常に高いバリュエーションが必ず暴落の原因になるわけではないということが示唆されるからだ。
確かに、現在のバリュエーションは高いレベルにあるため、今後のリターンは低下するかもしれない。それでも、株価の短期的な大幅下落が、投資家の売買行動によって引き起こされるのだとすれば、必ず結果が決まる事象とは言い難くなる。「高いバリュエーションは、取引の不均衡が起きる可能性を大幅に高める」と短絡的に結びつけるべきではないのだ。